『ささやく真実』(☆4.2)  著者:ヘレン・マクロイ

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 奇抜な言動と悪趣味ないたずらで、周囲に騒動をもたらす美女クローディア。彼女が知人の研究室から持ち出した新薬には、強力な自白作用があった。クローディアはその薬を自宅のパーティーで飲みものに混ぜ、宴を悲惨な暴露大会に変容させてしまう。その報いか、深夜、彼女は何者かに殺害された……! 
 死体の発見者となった精神科医ウィリング博士が、意外な手がかりをもとに指摘する真犯人とは? 
 マクロイ屈指の謎解き純度を誇る、傑作本格ミステリAmazonより

 マクロイは『暗い鏡の中に』しか読んでないけれど、その主人公でもあるウィリング博士シリーズの第3弾(第2弾は未訳らしい)。『暗い鏡の~』が日常と非日常、リアルと超常の境界線の上を彷徨うような独特の味わいでかなり好みだったので、この作品にもそれを期待したけれど、読み終わってみるとかなりガチな本格。

 とにかく小説を通して問われるのはただ一つ。「クローディアを殺したのは誰か」。大きなトリックがある訳でなく、すべての謎の終着点を「フーダニット」に特化させている。ただ、「フーダニット」の多くが「意外な犯人」に重きを置いているのに対して、この作品はその部分は実は弱い。弱いというより、容疑者が少なくて、尚且つみんなそれなりに怪しくて誰が犯人でもおかしくないのだ。

 じゃあこの作品の面白さはどこにあるかと言うと、フーダニットをフェアに成立させるためのヒントの散りばめ方、隠し方の上手さだと思う。特に犯人については、かなり早い段階で絞る事が出来るし、そのヒントも堂々と読者の前に提示されている。それでもその散りばめ方、隠し方があまりに精巧なので、ウィリング博士がその部分を指摘した時に、唖然としついついページを目繰り返してしまった。またこれはヒントだろうな、という要素についても、ヒントでありながら見方を変えると実はヒントそのものが作者の罠だったりして、ついつい読者は別の部分に興味を惹かれてしまう。
 つまるところ、この小説は「フーダニット」であると同時に、「なぜ」ウィリング博士は犯人を絞ることができたのかという意味での変格「ホワイダニット」小説でもあるのだ。

 シンプルなストーリー、ベタな人間関係、いかにも殺させるフラグ立ちまくりの人物に謎の自白剤。どこか前時代的なパーツで組み立てられているのに、現代でも通じる精巧な本格。
 そして、読み終わってみると出版社の紹介文もかなり計算されてる事に気付かされる・
 本格好きには満足な作品でした。



採点  ☆4.2