『さよなら妖精』(☆4.4) 著者:米澤穂信

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 一九九一年四月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。
 そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。覗き込んでくる目、カールがかった黒髪、白い首筋、『哲学的意味がありますか?』、そして紫陽花。謎を解く鍵は記憶のなかに――。
 忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物語。気鋭の新人が贈る清新な力作。

Amazonより

 ここ数年評価の高さが凄い米澤さん。特に復活した太刀洗シリーズの評判がいいですね。実をいうとこのシリーズは読んでない。というより米澤さんは殆ど読んでない気がするので、このタイミングをきっかけに挑戦してみました。

 時代設定は1991年から1992年にかけて。登場人物の年齢で見ると、高3から大学生に。さらに自分の年令に置き換えてみると、中3から高1の年齢ということで、ほぼ同世代かな、智います。
 さて、この小説を読んで主人公は、と聞かれるとそりゃあ太刀洗さん・・・ではなく守屋くんですよね。太刀洗さんはその同級生の一人。同級生の中でもクールな視点をもっている、守屋くんがそう評しているけれど、そのへんのキャラは案外と伝わってこなかったのはちょっとビックリ。
 91年、高3の守屋達は異国の少女マーヤと出会うところから物語が始まる。彼女の出身地は今は存在しない国、ユーゴスラビア。92年、大学生になった守屋は紛争に揺れるユーゴに帰国したマーヤの身を案じ、彼女の街がどこにあるのかを突き止めようとする。

 過去の時間、主人公たちとマーヤの物語。その日常的な交流が描かれる中で、マーヤを自分が感じたことを主人公たちに尋ね、太刀洗のクールな視線に圧されるように守屋が答えていく構成が中心になっている。
 「日常の謎」ではなく「日常の疑問」。マーヤの質問はどちらかというと日常生活の中で気にしなかったことに由来することが多い。そこから発展する謎に関しては非日常的なものもあるけれど、その根っこにあるのは自分のアイデンティティの探求だと思う。
 日常の中でのアイデンティティの探求の部分は、マーヤの祖国であるユーゴスラビアの姿とダブる。祖国に漂う動乱の兆し、その遠因にある民族間の争い。そんな祖国の姿を通して自己のアイデンティティを見つめようとするマーヤの思い。彼女との交流を通しながら、彼女の持つなにかをに強さと決意に、思わず守屋の口から出た言葉、青臭いかもしれないけど、個人的には好きだった。

 マーヤが去った一年後、彼女の無事を祈り、彼女の祖国を見つけようとする守屋達。突き止めたからといって、何が出来るかなんてわからない。それでもそのもどかしさが理屈をねじ伏せようとしてしまうのも、もしかしたら若さの特権かなとも思う。彼かが突き止めようとしたその先にどんなストーリーが待っているのか。

 それぞれのキャラが立ちそうで立ってなかったり、ミステリとしてみるとかなり弱い(というよりもミステリとしてアピールする事自体がこの作品に関してはいいアプローチではないと思うけど)、青臭く感じる部分も多いし、その部分で好き嫌いは分かるけれど、それでも時間が建って読み返してみると、また印象が変わるのかも。

少なくとも私にはツボだったです。


採点  ☆4.4