『呪い唄 ~長い腕Ⅱ~』(☆3.4)  著者:川崎草志

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 汐路のいとこ兄妹が命を落としてから数ヶ月、町を呪った近江敬次郎の復讐はまだ終わっていない―。そう考え、町にとどまった汐路は、一人の老人に引き合わされる。戦時中、近くに駐屯していたという元軍人で、終戦直後に姿を消した部下の行方を捜している、という。幕末に流行した「かごめ唄」が平成の世にまたはやり始め、童謡に乗せて、新たな罠が動き出す。
 横溝賞受賞作『長い腕』に、待望の続編が書き下ろしで登場。


Amazonより

 新年一発目の記事は、川崎草志さんの第2作にしてシリーズ第2弾。続刊が出るのにすごく時間が掛かっててましたが、その間の経緯は解説に書かれていて、色々な事情があり、それを読むと作家も大変だなぁと思います。

 さて続編ということで、一作目から順番に読んでないと、作中かなりネタバレ気味になるので注意。そんな前作の中でも重要な役割を担った近江敬次郎。その存在感をわかりやすく言えば、川崎版中村青司と言いましょか。ただ、中村青司が施工主の意向をある程度反映させていたのに対して、敬次郎は施工主にも内緒でいろいろやっちゃってるので質が悪いです^^;;

 そんな敬次郎の呪縛漂う早瀬の町で再び事件が起こります。とはいっても何が起きているかが明確な訳でもなく、何かが起こってるようだ、何かが起こりそうだという、ぼんやりとした不安。そんな見えない不安感は、本当に現代かよ、というぐらいの因習に囚われてる早瀬の街に似合ってるというか。

 物語の構成は、過去と現在のエピソードが羅列されるオープニングに続いて、前作より引き続き主人公を務める汐路の視点で描かれる早瀬町と、江戸時代末期の江戸の街でのエピソードが交互に描かれている。ちなみに、江戸時代の主役は勝麟太郎、のちの勝海舟。そういえば勝さんて第1作でもちらっと出てきたような・・。
 勝海舟語り部である必要がそこまであるのかどうか謎。あえていうなら敬次郎と同時代の人間、さらにはある事柄についての2つの時代のエピソードをリンクさせる役割として適材だったわけで、他の人で要素を満たす人がいれば別に他のだれかでもいい気がしますが、そう考えると勝海舟でも不自然な訳ではないですね、はい。

 そして今作の大きなキーワードになるのが「かごめ唄」。「か~ごめ、かごめ~」のあれですな。他のミステリでも結構題材として上がることもある気がするこの唄、まさに日本版マザーグースといった趣き(言い過ぎ?)。その解釈をめぐっては色々な説や意見があり、その主流的なところは作中でも説明されていますが、この作品ではそれらの説を活かしながら、あるいは時にミスリードして利用しながら、登場人物の歪んだ裏側を浮かび上がらせてます。

 ミステリとして読むと、現在・過去とも犯人についてはある程度想像しやすいし、意外性はないかな~と思います。むしろ犯人がなぜ事件を起こしたかという心理的問題、さらにはそこに近江敬次郎がどういう役割を果たしたのか、というのが肝ですね。そういった意味では、やっぱり前作同様スリラーサスペンス的なノリを楽しめるかどうかで、好き嫌いが分かれるかな~。そういう意味では横溝正史賞という冠の作家らしい作品なのかもしれんですね。

 ただスリラーとして読んだ場合でも、著者の文章がスッキリしているのと、物語がわりと纏まっているので、怖い・・と言われるとそうでもないのがもったいない。過去と現在を交互に描くスタイルも過去の事件が現在の事件の補完的な役割以上のものが無い上に、過去の事件に筆を割く必要があるため、比例して現在の事件のぶん料が少なくなり、結果として淡白になった印象もあります。

 あとはやっぱり、主人公の汐路の魅力が無いというかなんというか。なぜそこまで早瀬の街に拘っているのかが伝わりにくいし、前作のちょっと歪んだ心理状態が今作では控えめなので、なおさら感情移入しにくく感じました。
 とりあえず、次の作品で完結らしいので、読んでみようと思います。




採点  ☆4.0