『長い腕』(☆3.8)  著者:川崎草志

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   新人作家の登竜門たる、第21回横溝正史ミステリ大賞を受賞した話題作である。ゲーム製作会社に勤務する主人公は音楽と読書、そして孤独を愛する女性。現在の仕事に大きな不満はないが、同じ場所に居続けることを好まないため、会社を辞めしばらく故郷・愛媛県の小さな町に帰省しようとしている。ところが同僚の変死事件と、故郷の町で起きた女子中学生による殺人事件とに共通のキーワード「ケイジロウ」を発見し、調査を始めることに…。

Amazonより

 2001年の第21回横溝正史ミステリ大賞受賞作。乱歩賞は結構話題になるが、横溝正史(ミステリ大)賞が話題になることはあまり無い気がするのですが、過去の受賞作を何か読んでるかな?と見てみると、

おお!!読んでない!!

 2016年までの全36回。中には受賞作が無い年もあるのだけれど、それでも読んだのはなんと1冊!!第31回受賞作の『消失グラデーション』だけだった。歴代の受賞作を見てもタイトルが記憶に残ってるは殆どない!!ううむ、、、そんなに微妙な賞なのか。。。まぁ、服部まゆみさんの『時のアラベスク』ぐらい読んどけよ、という気もちょっとしますが。。

 という事で記念すべき2作目がこれ。川崎草志さんの受賞作。すいません、このタイトルも記憶に無かった。。。
 で、冒頭から、電車内のカップル殺人、空港での大量転落死、と派手な事件が短く語られ、その後にメインとなるゲーム会社での転落死事件と続きます。で、この転落死事件が起きる前に結構な量を割いて、ゲーム会社の様子が描かれます。ゲーム制作におけるそれぞれの役割分担や制作過程の過酷さが物凄く詳細に描かれます。興味ない人にとってはあれですが、私はこの部分、結構なるほどな~と楽しみました。
 そして一段落したところで、ヒロインが会社内ですれ違った別プロジェクトの二人が直後に転落死。さらにはそのうちの一人にはまったくもって人気が無いだろう同じキャラクター人形「ケイジロウ」が机の上に大量に並べられていて・・・うん、序盤の書き出しとしては結構魅力たっぷり。さらにはケイジロウのアクセサリーを主人公の故郷で起きた中学生同士の猟銃殺人事件(中学生が猟銃で同級生を射殺というのもそれだけでインパクト大)の関係者が着けていた事にヒロインが気づいて、と物語が広がっていきます。

 物語が始まったところですでに会社を退職予定のヒロインは、事件の真相を探るために故郷に帰るのですが、この故郷早瀬町がまた凄い。統計学的に平均を大きく上回る殺人事件が起きていて(人口比なので件数は少ないですが)、さらにはそれが長い間続いているという脅威の街です。ちなみにこの統計については、主人公がネットで殺人事件の統計を扱っているHPの管理者に問い合わせるのですが、この管理者がかなりおかしい。趣味で新聞から殺人事件を取り上げ続け、その理由が趣味なだけ、と奮ってます。メールの口調も含めてかなりインパクトのあるキャラで、作中でも重要な役割を果たしそうですが、登場するのはその場面だけ。ううむ、完全にご都合キャラやん!!

 実家に戻っても極端に閉鎖性の高い環境の中で、2つの事件の共通点を探すヒロインですが、とにかく魅力に欠けます(笑)。粗筋のキャラ紹介を読むとハードボイルドキャラですが、単純に協調性に欠ける人としか思えない。ヒロイン自身の両親も転落死しており、その現場を目撃したことによるトラウマがあるんですけれど、それにしても・・という感じ。田舎に戻ってからは猟銃事件の同級生の男子生徒がいわゆるワトソン役で登場するのですが、その扱い方も酷いというか、モラルハザード状態。中学生にそれをさせる大人ってどうよ!!

 そんなこんなで推理型ではない主人公が助っ人や偶然にも助けられながら、事件の真犯人にたどり着くのですが、この犯人の正体{ビジュアル含む)がまた凄いというかなんというか。意外な真犯人の部類に入ると思うんですが、その壊れっぷりはミステリというよりスリラーです。

 全体として、後半の怒涛の展開はある意味本家横溝の『八つ墓村』系。ミステリというよりスリラー系の色合いが強いのが、もしかしたら横溝賞受賞に繋がったのかもしれませんね。本格系のミステリとして考えたら、ストーリーの一部を回収しきれてなかったり、論理的に事件を考えていく部分が脆弱だったりするので、評価は低くなるかもしれません。
 ただ、文章は非常に読みやすい(ただ一点、なかなかヒロインが女性っぽく感じないのはどうなのか、という気が)。物語の中で建物の活かし方がネタとマッチしていて良かったと思うので、細かいところを気にしなかったら、結構楽しく読める作品だと思います。
 しかし、この魅力にかけるヒロインが、シリーズ化されているのにはビックリですな。舞台も同じ早瀬町みたいだし、もしかしたら今回回収されなかった伏線(?)が生きてきたりして。



採点  ☆3.8