『松谷警部と目黒の雨』(☆3.4)  著者:平石貴樹

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 目黒本町のマンションで殺害された小西のぞみの身辺を調べていくと、武蔵学院大学アメフト部「ボアーズ」との関連が浮上、更にはボアーズの仲間内でこの5年に複数の変死者が出ていると判明した。これらは?壓がっているのか。
 松谷警部は白石巡査らと捜査に当たるが、のぞみの事件についてボアーズ関係者のアリバイはほぼ成立し、動機らしきものも見当たらない。過去の事件は不可解な点を残しながらも既決事項となっている。
 白石巡査は「動機は後回し」と地道に捜査を進め、ついに犯人がわかったと宣言。松谷の自宅で清酒浦霞」を傾けながら、白石の謎解きが始まる。

原書房より

 読書好きの中で電子図書というのはどれぐらい浸透しているのでしょうか。私個人としては、スマホタブレットAmazonKindleアプリは入ってるし、KindlePaperwhiteもKindle Fireも持ってたりする。でもそれで何を読んでるかというと、小説よりも雑誌系とかの方が圧倒的に多い気がする。
 そんななか始まった定額制サービスのKindle Unlimited。Amazonプライム会員なら対象書籍が読み放題。まだまだ書籍数は微妙な気がするけれども、たまに「こんな本が読み放題!?」というのもあったりして。という事で、この作品も読み放題に入っていたので、読んでみました。

 マンションで発見された女性の死体。事件を追っていくうちに、過去に起きていた複数の事件と関係があるようで、という内容。調査の中心となるのは松谷警部だけれども、彼の役割はホームズでは無く、ワトソン。この作品のホームズ足るのは、まるで少年のような活発な容貌を持っている白石以愛(いあい)巡査。ホームズとはいってもあくまで探偵役というだけで、決して個性が強いわけでもなく、周りの上司・同僚をきちんと立てているし、嫌味のないヒロイン。そんな彼女を見守る松谷警部の視線はさながら父親のよう。現場での二人の出会いから、不自然なくらい温かく白石巡査をたてる松谷警部。どうやら以前、彼女に似たようなタイプの女性と仕事をしたことがあるらしく、作中なんどか触れられる。この人物の正体は明らかになる訳ではないが、どうやら、作者の過去の作品の登場人物らしい。
 文章的に癖があるわけでもなく、読みやすい方だと思うし、作品全体の雰囲気も柔らかい感じがする。ただ、肝心の内容の方は結構なガチガチの本格。クライマックスにならないと分からない事実もあるけれど、概ねすこしずつ集まってくる証拠や証言を元に、真相に迫っていく過程は堂に入っている。
 
 この小説の肝として、犯人の動機があると思う。この部分に関して言えば、真相が明らかになる前に読者が分かるのは難しいかな、と思うし、動機そのものもまぁ、ある意味身勝手といえば身勝手な動機だと思う。ただ、その動機に関して、登場人物たちは結構同情的だったりする。まぁ、こんな事件を起こした犯人に同情するのもどうなんだ、という気もする。言ってしまえば、石持浅海さんの『水の迷宮』やら『セリヌンティウスの舟』の感想に近いような。ただ、実際の動機的な部分は作り物めいた感が無きにしもあらずだけれども、事件そのものを肯定しているわけでも、お涙頂戴大団円になってる訳でもないので、あそこまでは否定的にはならない。登場人物たちはともかく、主役コンビのいい意味での空気感もそんな印象に一役買ってるのかな。

 とりあえず、シリーズで出続けてる本書。こりゃ、図書館で借りてみよう・・って、地元の図書館に一冊もシリーズが無い・・・・。



採点  ☆3.4