『赤い博物館』(☆4.7)  著者:大山誠一郎

イメージ 1

 『密室蒐集家』で第13回本格ミステリ大賞を射止めた著者がミステリ人生のすべてを賭けて贈る渾身作。
 キャリアながら《警視庁付属犯罪資料館》の館長に甘んじる謎多き美女と、一刻も早く汚名を返上し捜査一課に戻りたい巡査部長。図らずも「迷宮入り、絶対阻止」に向けて共闘することになった二人が挑む難事件とは――。
 予測不能の神業トリックが冴え渡る、著者初の本格警察小説!

Amazon紹介より

 大山さんか~、『密室蒐集家』面白かったな~。多分長編は『仮面幻双曲』だけだし、アンソロジー系で名前をよく見るし、完全に短編作家な印象ですね~。

 ということで、今回も連作短編集。過去の事件の資料を保管・管理する『犯罪資料館』。捜査資料流出の責任を取って左遷された元警視庁捜査一課巡査部長・寺田聡を出迎えたは、キャリアながら閑職ともいえる館長を務める、感情を表さない女(寺田曰く雪女)・緋色冴子。彼女たちの元に警察から集まってくるのは、時効・時効前・解決・未解決事件を問わず一定期間を過ぎた資料の山。基本業務といえば、その分類とラベリングの毎日。しかしそんな資料の中には冴子が疑問点を持つ事件が・・・。

 いや、こりゃまた面白い、というか凄いじゃないですか?
 大枠の設定だけ見ると、なんだかわりとありそうなパターン。資料に眼を通して、というところなんかは安楽椅子探偵系。対人関係にやや難がある探偵役の冴子に代わり、情報収集を務めるワトソン役の寺田という組み合わせもある意味王道。
 そんな一歩間違えると、どっかで読んだことあるんじゃね?ってなりそうなのをそうさせてないのが、練りに練られた各短編の構成。短編というと、どうしても分量的にトリックの切れ味で見せるタイプの作品が多くなると思うし、それをどう見せていくかというとこが読みどころなのかなぁ、と思うのですが、この作品に収録されてる短編はトリックの見せ方の切れ味が半端無い、というか、どうしてそのトリックを使ったのか、という部分がすごく練られてるし、その部分がトリックを輝かせるだけじゃなくて、物語にもいい意味での捻りを与えてくれてる感じでしょうか。とにかくすべての短編が水準以上で限りなくフェアプレイな印象、新しい世代の本格を代表する短編の名手といっても、もう褒め過ぎではないですよね~。

『パンの身代金』
 脅迫されたパン会社の社長が、身代金受取先の廃屋で現金を残したまま行方不明に。翌日には死体で発見された。廃屋にあった防空壕から逃げ出したと思われる犯人と社長に一体なにが起きたのか。
 事件当時の警察の解釈のある部分については、冴子と同じ疑問を持ちました。でも、そこからそんな解釈が導き出されるとはねぇ~。これは読者に対しての盲点というよりは、当事者たる警察にこそ盲点になる発想ですなぁ。動機の部分に関してはやや取ってつけたような感じもありますが、トリックそのものの見せ方、そしてラストのある警察官の台詞から冴子のスタンスを明確にさせてるっていう意味でも、連作一発目に相応しいと思います。

『復讐日記』
 第1話から一転、ある登場人物の復讐殺人劇の告白手記から始まるので、ちょっとビックリ。ここからどういう風に展開していくのかな、と思ったらそう来ましたか、とういう感じ。一話目に比べてさらに読者の予想を裏切る(私だけ?)展開に。日記という手法を採った書き方に納得、トリックの理由が何とも切ない、やりきれない読後感に直結してるという意味でもレベル高いです。

『死が共犯者を別つまで』
 偶然寺田の目前で起こった交通事故。その運転手が死の直前になんと未解決の交換殺人を告白をしたのだった。
 交換殺人そのものはよく取り上げられるテーマだと思うんですが、短編の分量の中でここまで捻ってきますか、と。トリック・意外な真犯人・そして絶妙のタイトル。全てが高レベルで、この作品を読んだ段階で、この作品がこの連作短編集の白眉だな、とおもったのですが・・・。

『炎』
 些細な事をキッカケに、始まった21年前の夫婦・叔母殺人放火事件の再調査。寺田は唯一の生き残りとなった娘から話を聞くが・・・。
 いや~~~~~~、こりゃやられた。『死が共犯者を別つまで』も短編パズラーとしてレベルが高かったが、これはその上をいくかな~。個人的にはのりりんの『都市伝説パズル』と同じぐらい評価高いです。たったひとつの質問をきっかけに事件の真相を導き出した冴子もすごいですが、この事件を起こした犯人の動機が凄い。この作品の中では唯一推理が正解なのかどうか確定されないのだけれども、その事によって背筋をゾッとさせるような読後感を味あわせてくれます。短編でここまで書けるんだから、我孫子さん(by『裁く眼』)ももうちょっと頑張ってくれよ~、と思ったりなんかして。

死に至る病
 26年前の事件を再現したかのように起こった殺人事件。その再現っぷりに過去の捜査陣の中に犯人がいるのではないか、と疑った警察上層部は極秘裏に冴子達に事件の調査を依頼するが。パズラー要素はこの短編集の中では随一、でもトリックという意味では他の短編に比べると落ちる。けれども、そこはそもそも犯人にとって大切じゃなく、むしろそうした理由がなんだったのか、というのが本編の肝。あまりに意外すぎる真犯人(多分この短編集の中でももっとも意外だと思う)と、その強烈かつ歪んだ動機が印象に残ります。

 最後に冴子の過去を匂わす発言、これは続編への伏線なのか??いやぁ、続編が出たら読みたいなぁ~。いや、なんだったら『密室蒐集家』が先になってもいいので、とりあえずコンスタントに作品を発表してください。。

 どうでもいいですが、この作品、すでにドラマ化されてて録画もしてるんですが、うーむ、見る勇気がわかない。。。



採点  ☆4.7