『裁く眼』(☆3.0)  著者:我孫子武丸

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 漫画家になり損ね、浅草の路上で似顔絵を描いて生計を立てている袴田鉄雄。あるとき、彼の腕前を見込んだテレビ局の人間から、「法廷画」を描いてほしいという依頼が舞い込む。描くことになったのは、殺人の疑いをかけられた美女だった。通り描いた絵が、テレビで放送された直後―鉄雄は頭を殴られて昏倒する。
 彼は一体、何を描いてしまったのか?

Amazon紹介より

 我孫子さんの8月に出た新刊。いったい我孫子さんの本ていつぶりなんだろうか、と思って調べてみたら、アンソロジー系に収録された作品を除くと、1995年に発表された『腐食の街』以来ってことに気づく。まぁ、PS Vitaの『真・かまいたちの夜』はプレイしてたけど、本になるとそんなに読んでないですね~。

 冒頭、路上絵描きで書いた女性の絵をその恋人らしき男性から罵倒される主人公・鉄雄。自信を失いかけたところに舞い込む法廷画の仕事。
 法廷画を通して、という事でちょっとした法廷ものなのか?というと以外とそうでも無く、物語の中心はなぜ法廷画を描いた直後に襲われたのか、という主題なので、法廷の場面は意外にあっさりしてた。
 なにしろ当時ワイドショーを騒がせた連続殺人疑惑事件の割には、裁判員裁判で4日間で判決まで出てしまう。実際の裁判のペースはわからないけど、いくらなんでも早すぎない?と思ってしまうスピード裁判。裁判の様子も、鉄雄から見た容疑者の女性の印象が殆どで、事件のことについてはあまり触れられていないし。

 導入としては魅力的な謎。なにしろ普通に超緻密な法廷画を描いただけで襲われる理由がまったく想像できないのから、これがどう解決するんだろうって感じ。おそらく冒頭のちょっとしたエピソードも関係あるんだろうな~、とは想像できるけれども。事件を追う鉄雄の姪・蘭花の存在も可愛い。一心に叔父の才能を信じて、時には積極的すぎて無茶な行動につながったりする、愛らしい存在。ただ、なんとなく描写には時代を感じなくもなかった可愛さなんですけどね。

 で、結局事件の真相、そして鉄雄の絵に隠された秘密なんだけれども、

う~~~~~~~~~~ん・・・

 要所要所で伏線は張られてるし、その伏線も回収は出来ている。ただ、鉄雄の絵に隠された秘密については推理の範疇外のような気がするし、正確には当てられない。なのでそこに原因がある事件についても解決部分は駆け足の印象。むしろ、もしかしたらラストの容疑者の女性を巡るエピソード部分が一番作者の描きたかった事なのかな?あの部分に関して言えば、本編の事件よりよほど、絵の秘密が重要なキーワードになってる。ただその部分のテーマに関していえば決して目新しいものではないので、もう少し肉付けをしてもらえたら、いい意味でのモヤモヤした読後感がもっと堪能できるのかなぁ~。

消極的な主人公と蘭花の組み合わせはベタだけどラノベ風で楽しめなくはなかったし、もしかしたらこの設定を分かった(踏まえた)上で、続編なんかがでたりすると、その方が案外たのしめるのかな~。。。



採点  ☆3.0