『世界が赫に染まる日に』(☆3.7)  著者:櫛木理宇

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まずはあらすじ。

 中学3年生の緒方櫂は、従兄妹の未来を奪った加害者に復讐を誓った。自分の左目は見た者を石にする“邪眼”だと称する高橋文稀は、15歳の誕生日に自殺する計画を立てた。夜の公園で出逢った二人は、文稀が死ぬまでの間、櫂の復讐に協力する契約を結ぶ。予行演習として、少年法に守られ罰せられない犯罪者たちを一人ずつ襲っていくが、彼らの制裁は次第にエスカレートしていき―。
 復讐の意味を問いかける衝撃作。

Amazon紹介より

 『侵蝕』がまずまず面白いと思った櫛木理宇さん。図書館で色々借りてきた中の一冊。

 粗筋だけ読むと、被害者の苦悩と少年法の限界をテーマにした小説のような感じで、復讐の枠は違えど近年の東野作品にありそうなテーマな感じ。でも実際に読んでみると、少年法との絡みはそこまで濃くなく、むしろ復讐という義憤に囚われてしまった主人公たちの心の闇に重きが置かれている。

 従兄弟への暴力の被害者への義憤へ囚われる櫂、誕生日までに自殺すると誓った文稀。それぞれにある種のトラウマを抱えた2人。彼らが志した思いそのものは、理解できなくもないし、同情もする。
 但し、抑えきれない目的への思いの為に取った手段は肯定できない。裁かれなかった他の様々な事件の加害者を、予行演習として襲っていく。確かに予行演習の標的となった元加害者達の行動は、ある意味2人の復讐方法と比べてもよっぽどブルーになる。
 それでも、標的にされてもしょうがないという彼らの考えはどうなんだろうか。私憤なのか、公憤なのか、それとも衝動のままなのか。櫂も文稀も、自分たちの行動の理由をそれなりに理由付けをしようとしているが、結局彼ら自身も明確に答えれるものは無かった。目的の為の手段なのか、手段のための目的なのか。分からないまま予行演習を重ねていく事によって、2人の歩むべき道は不安定なまま混沌に包まれ、そして分かれていく事になってしまう。

 2人のキャラクターや性格、育ってきた環境、人間関係。深くは書き込まれていないけれど、恐らくキチンと設計してあるんだと思う。節々で非現実的な方向に転がりそうな箇所もあるけれども、2人の個性がはっきりしている分、そういう行動・考え方するんだろうな~、と思えるし、物語として破綻してない。

 復讐の理不尽なエスカレートっぷり(とはいっても、いうほど残酷な描写というインパクトも無いし、エスカレートといっても実はあまりピンとこなかったですが)と目的を達成するための手段の正当性の無さは、読んでて不快に感じる人もいるかもしれないけれど、小説としてはテンポは悪くないし読みやすい。軽くも無く、そうかといってめちゃくちゃ重いわけでもなく、読み物としてバランスのいい作品だと思う。ただ、テーマがテーマだけに、もう少しどちらかに針の振れた作品として読みたかったかも。

 


採点  ☆3.7