『侵蝕』(☆3.7)  著者:櫛木理宇

イメージ 1

まずはあらすじ。

ねえ。
このうちって、とてもいいおうちよね。
――わたしの、理想のおうちだわ。

皆川美海は平凡な高校生だった。あの女が、現れるまでは……。
幼い弟の事故死以来、沈んだ空気に満ちていた皆川家の玄関に、
弟と同じ名前の少年が訪れた。
行き場のない彼を、美海の母は家に入れてしまう。
後日、白ずくめの衣裳に厚塗りの化粧をした異様な女が現れる。
彼女は少年の母だと言い、皆川家に“寄生"し始め……。

洗脳され壊れてゆく家族の姿におののく美海。
恐怖の果てに彼女を待つ驚きの結末とは……。

恐ろしくて、やがて切ない、
大人気シリーズ『ホーンテッド・キャンパス』著者による傑作ミステリ!

(単行本『寄居虫女』改題)

Amazon紹介より

 櫛木理宇さん、「チェインドッグ」は積ん読にあるんですが、古本屋で見つけたこちらを先に読む。そういえば、『寄居虫女』ってタイトルは見たことあるな~、ぐらいの知識しか無い作家さんの初読。

 粗筋から分かる通り、北九州監禁殺人事件・尼崎監禁殺人事件を彷彿させる、というよりモチーフはそれらの事件なんでしょうね、やっぱり。現実の事件の方もパラパラと北九州事件のノンフィクションを読んでみたけど、あまりにアレ過ぎてパラパラで止めたんですが、こっちの小説も中々陰惨。
 冒頭に簡単な登場人物の紹介があるので、白ずくめの女の名前も分かっているし、うっかり彼らを導き入れてしまった一家の運命も凡そ読者には想像できる。なので、こっちとしての興味は主人公一家が崩壊していく家庭と、白ずくめの女・葉月の正体に自然となってしまう。

 実際の事件の過程・被害者達の心理状況は分からないけれど、小説の登場人物たちが追い込まれていく流れにはかなりの説得力、というより迫力がある。普通に考えたらあんな状態になるなんて信じられないけど、成程こういう風に追い詰められたらおかしくなるかもな~、と思ってしまいました。実際の事件もそうだったんでしょうけど、これはもう、家に入れた時点で運命が決まっちゃうよな~。それぐらい執拗かつ狡猾。

 また、途中何度か挿入される幕間で、過去に葉月が起こした同様の事件を追っている被害者家族が描かれているけれども、これが入ることによって葉月が連れている子供がもしかして・・・いうもう一つの謎が出来て、クライマックスでのある驚きの展開を支えてたりなんかする。

 正直、一家を取り巻く先生や近所の人がステレオタイプで描かれてたり、幕間に出てくる過去の被害者がどうしてここまでしっかり葉月の足取りを追うことが出来たかよく分からなかったりと、説明不足の点もあったりするのだけれども、それを補うだけの構成は小説としてあると思う

 小説の分量的にどうしても登場人物の配置や展開が物語優先になってる部分があったり、ラストの読後感についても多少好みは分かれるかもしれないけれども、安心して読めるダークな作品でした。


採点  ☆3.7