『ぼぎわんが、来る』(☆3.9)  著者:澤村伊智

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まずはあらすじ。

 幸せな新婚生活を営んでいた田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。取り次いだ後輩の伝言に戦慄する。それは生誕を目前にした娘・知紗の名前であった。正体不明の噛み傷を負った後輩は、入院先で憔悴してゆく。その後も秀樹の周囲に不審な電話やメールが届く。一連の怪異は、亡き祖父が恐れていた“ぼぎわん"という化け物の仕業なのだろうか? 
 愛する家族を守るため秀樹は伝手をたどり、比嘉真琴という女性霊媒師に出会う。真琴は田原家に通いはじめるが、迫り来る存在が極めて凶暴なものだと知る。はたして“ぼぎわん”の魔の手から、逃れることはできるのか……。
 怪談・都市伝説・民俗学――さまざまな要素を孕んだノンストップ・ホラー! 

最終選考委員のみならず、予備選考委員もふくむすべての選考員が賞賛した第22回日本ホラー小説大賞〈大賞〉受賞作。

Amazon紹介より

 『ずうのめ人形』が思いもよらず当たりだったので、デビュー作となった第22回日本ホラー小説大賞を受賞したデビュー作を借りてきた。

 これがデビュー作か~~~~。すげぇなぁ~~~~~。

 まず内容がどうのこうのいうより、読みやすい。『ずうのめ人形』もそうだけれども、決して新しい何かがあるわけでない。むしろどこかで聞いたような、『ずうのめ人形』が都市伝説系の王道だったように、デビューである本作も怪談噺系の王道だ。それにも関わらず、ぐいぐいと読ませるだけのパワーがある。これだけでも十分に凄いと思う。

 内容としては三部構成。第一部は子供の頃からなぞの怪異に出会う男の視点。第二部はその妻の視点。そして第三部はオカルト作家の視点。視点が変わることによって、物語の方向性も変わる。

 第一部の夫の視点。子供の頃に出会った怪異が、家庭を持った男に再び忍び寄ってくる。冒頭の「ぼぎわん」との出会い。まったく正体の分からない怪異から家族を守ろうとする姿。ジワジワ系というよりは、伽椰子さま系のスプラッタチックな表現もあり、現在から見ると古典的な作りを丁寧に修復・再現していて、正統派ジャパネスク・ホラーとしての系譜に間違いなく乗っている。非科学的なものには非科学的なもので対抗するしか無い、それを納得させるだけの力があり、第一章のクライマックスにおける「ぼぎわん」の力に慄くばかり。

 正統派ホラーの第一部を受けた、第二部。今度は妻の視点。ただし、物語の時間軸としてはほぼ第1章と同じなので、言ってしまえば第一部と第二部が表裏一体になっている。別の視点から描く事によって、怪異の正体が少しずつ浮かび上がらせると同時に、その遠因となる人間の厭らしさ(恐ろしさ)も描いてくれていて、一体どっちが本当に怖いのか、頭を悩ませてくれる。
 おおよそ、日本の怪異というものは人間の心の隙間に入り込んでくる何か、そこから発生する得体のしれぬ不安の概念を固有名詞化したものかもしれない。この名前と怪異の関係は、この作品でも一つのキーワードになっている。 
 現実と怪異のバランスもすごく良いし、第二部のラストの描き方なんて、ホラー映画の名場面になりそうな感じだ。ここまでで、もう十分に傑作だと思う。

 そして、第三部。ここからは第一部の主人公である夫から相談を受けたオカルト作家の視点となるが・・・問題、というかネットの批評を見ても、ここからの評価は真っ二つになっている。実際にここまでのストーリーの展開が古典的な日本ホラーの作りを受け継いでいたのに、ここから一気にB級海外ホラーのノリになってくる。それに輪をかける語り手たるオカルト作家の独白が、これまでの物語の世界観とビミョーにマッチしないというかなんというか、微妙にうざい(笑)。  
 さらには、途中からさらに強い(?)キャラが出てくるあたりは、なんだかラノベ調。まったく別の作品だと思えば、この展開でも面白いのかもしれないけど、どうにもバランスが悪く感じたのは事実。辻褄そのものは決してデタラメというわけでなく、伏線もきちんと回収していくあたりは作者の力量は十分に感じる事ができるのだけれども。

 後半になっての物語の変調具合は、第2作の「ずうのめ人形」に通じるところがあるので、もしかしたらこの展開こそ作者の好みなのかもしれない。デビュー作ということで、この後に書かれた「ずうのめ人形」に比べると荒削りではあるし、作品としてはもったいないなあ、と感じるところはある。
 ただ、それでも面白い。十分な読み応えはあるし、今後の作品もチェックしたい作家の登場だと思います。



採点  ☆3.9