『ずうのめ人形』(☆4.5)  著者:澤村伊智

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まずはあらすじ。

 オカルト雑誌でアルバイトとして働く藤間は、校了間際に音信不通になってしまったライター・湯水を探すために同僚の岩田とともに湯水の自宅を訪れる。そこで2人が発見したのは、顔中に”糸”のような引っ掻き傷をつけ、自ら目を抉り出した状態で死んでいた湯水の姿だった。

 一週間後、湯水の葬儀を終えた藤間に岩田がコピーの束を押し付ける。それは亡くなった湯水の部屋に遺されていた手書きの原稿。岩田から湯水の死の原因はこれにあるはずだ、と言われた藤間は半信半疑で原稿を読み始める。そこに描かれた「ずうのめ人形」という不気味な都市伝説、それと対応するように藤間の周辺に現れる顔中を”糸”で覆われた喪服の人形。

 迫りくる怪異をふせぐため、藤間は湯水の後任ライターである野崎と彼の婚約者であり霊能力者の真琴に原稿のことを相談するが・・・。

果たしてこの物語は、「ホンモノ」なのか。
迫りくる恐怖を描くノンストップ・エンタテイメント! 
これは全部「小説」の話だ。
にも関わらず、「僕たちの」の現状とシンクロしている。


Amazon紹介より

 第22回日本ホラー小説大賞を受賞した澤村伊智の受賞後初作品。受賞作「ぼぎわんが、来る」は読んでないですが、図書館の新刊コーナーで見つけて面白そうなので借りてみました。

 いや~、これは面白かった。現在進行系で主人公たちの前に現れる怪異と、怪異の発端となったと思われる原稿の内容が交互に語られる。原稿の内容が語られるたびに現在の怪異と比較できるようになっているので、頭の中にもスッキリ入ってくるし、主人公たちと同じ立場で怪異の謎に迫ることが出来ます。
 主人公たちが襲われる怪異はいわゆる(?)リング系、なにかしらをキッカケに自分の命にタ イムリミットを設けられてしまう。時間までに呪いを解かないと死が必ず訪れるというやつです。   
 面白いのは作中、有名な都市伝説系のエピソード(トイレの花子さんとか、テケテケとか)とならんで、メディア系のエピソード(昔の怪奇映画からリングまで)まで取り込んだ恐怖論(呪い論?)が薀蓄として披露されること。中には実際の映画の批評があったりなんかして、大丈夫か?と思わなくもないですが、その指摘そのものは、一解釈としては腑に落ちるものでした。

 作中で披露される分析として、物語を捉えるいわゆる怪談(都市伝説)が怖いという原因には2つの傾向があるという。一つは怪異そのものが怖いという事、もう一つは怪異が広がっていく現象そのものが怖いという事。この作品はどちらかというと後者の要素になると思います。図書館のノートを通じてその都市伝説を知った原稿の主人公・里穂の周りで起こる怪異は、その伝承の伝わり方こそ限定された空間での出来事だったものが、周囲を巻き込みながらじょじょに拡散していく。とにかく呪いが拡散する方法、あるいは止める方法そのものが掴めそうで掴めないのがもどかしく、じょじょに追い詰められていく怖さがヒシヒシと伝わってきます。クライマックスで怪異の正体(?)が明らかになった後で起こるトンデモナイ出来事は、まぁ、さすがにやりすぎ?というかちょっとばっかり笑ってしまいましたが、エピローグでそれまでの小説の流れを再度引き戻し、ちょっといやな気持で終わらせてくれるのもいかにもホラー系の小説らしいかなと思います。

 そんなしっかりとした怖さを持ってる一方でミステリとしての様子も意外と濃いです。情報や証拠品を収集、怪異を分析し真相に迫っていく過程は結構に本格してるし、調べれば調べるほど真相が霞んでいくというミステリとしてのリーダビリティもしっかりありました。そして怪異の正体が明らかになる中で意外な真実なんかもきちんとあったりなんかします。そこに至るまでの伏線も実は結構序盤から張ってたりするもんだから油断なりません。ただ、クライマックス部分はこのミステリとしての要素が強くなりすぎな感もあるので、純粋にホラーとしての怖さを楽しみたい人にとっては逆に盛り下がるって感じるかもしれません。まぁ、おぉと思いましたが^^

 個人的にはじわじわくる和製ホラー系の作品は好きなので、予想外のミステリ濃度も含めてかなりオススメな作品です。ただ、この作品自体は独立した作品として問題無く読める小説ですけど、できればホラー大賞を取った「ぼぎわんが、来る」から読んだほうが登場人物的にいいみただと、あとで気づきました。まぁ、しょうがないか~、とりあえずデビュー作を借りてこよっと。
 


採点  ☆4.5