『放課後スプリングトレイン』(☆3.9)  著者:吉野泉

イメージ 1

まずはあらすじ。

福岡・天神を舞台に贈る、透明感溢れる青春ミステリ。

四月のある日、福岡市内の高校に通う私は、親友・朝名の年上の彼氏を紹介される。そのとき同席していた大学院生の飛木さんは、私の周りで起こる事件をさらりと解き明かしてみせる不思議な人だった。天神に向かう電車で出会った奇妙な婦人、文化祭で起きたシンデレラのドレス消失事件……。
福岡の街で私はたくさんの答えを探している。解くことが叶わなかった問題も、真相に辿り着けなかった謎も、すべて覚えておこう。今日は見えずとも、形を変えて色を変えて、いつの日か扉を開ける鍵が手に入ると信じて。


第23回鮎川哲也賞最終候補作を改稿してのデビュー作。自分の読書傾向からして、こういう感じの作品を選ぶのは自分でも珍しい気がするけれど、なぜ選んで買ったかは自分でもすでに覚えておりません^^;;

 あらすじからも分かる通り、いわゆる「日常の謎」系の作品。女子高生の主人公・泉が出会う日常の気になる事を、友人の朝名の彼氏の友人の大学院生(こう書くとなんか遠い繋がりのような気がしちゃう)・飛木さんが解決・・というより解釈を見つける構成。
 いかんせん40前のおっさんなので、初対面デートでミルフィーユはNG、高校生は泣かないもの、とかよく知らない薀蓄も出てくるのですが、それでも文化祭準備の盛り上がりとか、席替えでいかに後ろの席を確保するか真剣(?)に悩む場面など、今も昔も変わらんな~というところもあったりして、なんとなく懐かしく読めます。
 作品全編を通して出て来る色に関するアンケートについてもその都度ついつい考えてしまった。優勝賞品のプレミアム焼きそばパンも美味そうだったし、「恋の色」というお題に対しての「君色」という答えもベタでチョット好き。

 とにかく日常の謎王道系の作品だとは思うのですが、デビュー作だからかちょっとしたユーモアテイストの場面の入れ方がぎこちなかったり、オシャレな感じ(?)を狙ったのかなという場面があまりに知的すぎてさらっと読めなかったりというのは気になりました。一方で伏線の貼り方や実は◯◯トリックをさりげなく使って作品の雰囲気の景色を変化させたりと、やっぱり推理系の賞から出て来た本だなと思わせてくれます。

 あとはこういうのってやっぱりキャラで惹きつける部分が個人的にはポイント高くなったりするわけで、例えば北村薫さんの「円紫さんと私」や「覆面作家」シリーズが個人的にはそうなんですが、それらに比べると、主人公はともかく飛木さんのキャラがイマイチしっくり来なかった。見た目に似合わず大食いであるとかキャラは作ってあるんですけど、どこか謎と向き合う視点がブレているというか、キャラとして定まりきれてないのかなという気がしました。妙に難し目な知識を披露したかと思えば、そこまで難しい表情(?)をせんでもいいんじゃない、と思ったり。このあたりはほんと、デビュー作の硬さなんでしょうか。この作品がシリーズかされるのかどうかは分かりませんが、もし続編がでるなら、この辺が解消されてたらもっと面白くなるかな~。

では各短編の感想を

『放課後スプリングトレイン』
表題作:実はある部分に作品全体の伏線が描かれてるのですが、鈍感な自分は最後まで分からんかった^^;;それはともかく、スカートをお尻に敷いてるのにまったく動いてくれないおばさんの行動の原因が凄すぎる。正直そんなオチかい!!科学の実験の場面に繋がる色の三原色と光の三原色のお話、うーんそういえば昔こんなの習ったなあ~。


『学祭ブロードウェイ』
文化祭の英語劇直前に無くなったシンデレラの服を巡るお話。ミステリ趣向としては一番凝ってる作品。ただしその後味に関しては、あまり良くないかも。ただこのあたりはなんとなく好みしだいかも。
 それにしても学園祭の出し物に国しばりをつけるってすごいなぁ~。そしてそのダジャレっぷりがちょっとおかしかった。ブラジル→ぶた汁→豚汁、オーストラリア→ワラビー(カンガルー)→わらび餅とか。この辺のセンスは大好きだし、勝手に高校生らしいと思ってしまったけど、間違ってる?


『折る紙募る紙』
席替えのクジを巡る分析とボランティア活動中に起きたちょっとした謎の物語。前半の折り紙の席替えクジに対し、いかに後ろの席をひくかについて無駄に真剣な考察をする場面は面白かった。なんかこういうの真剣に考えてたな~。後半のボランティアの謎に関しては、うーん、どうなんだろ。そこまでして◯◯しなくてもと思うのはひねくれ過ぎなのかな~。


『カンタロープ』
マリリスを育ててたはずなのにマリーゴールドを枯らしたという小学生の真意は?事件そのものの動機?に関しては納得。こういうことはあるだろーな~って思います。ただそこへ導くまでの飛木さんの行動に感情移入がしにくかったかな~。全編通して単純におわってみればいい話という訳でなく、一種の毒を内包しているので、このへんがどう今後消化されてくんですかね。
それにしても、◯◯トリックが分からなかったのが悔しい・・・。


個人的に新人の作品としてはレベルが高いと思うので、次回作以降楽しみであります。

採点  ☆3.9