『黒面の狐』(☆3.7)

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まずはあらすじ。

あの真っ暗闇の奥から、
何かが私を凝っと覗いている。

戦後まもない北九州の炭鉱で起きた、不可解な連続怪死事件。
真相を知るのは、ただ黒面の狐のみ……?

戦後まもない混乱期。主人公の物理波矢多(もとろい・はやた)は満洲の建国大学から日本に帰国し、足の向くままに北九州の炭鉱で炭坑夫となって働き始める。そこで、同室の合里が落盤事故で坑道に取り残されたのを皮切りに、炭坑夫が次々と自室で注連縄で首を括るという、不気味な連続怪死事件に遭遇する。その現場からはいつも、黒い狐の面をかぶった人影が立ち去るのが目撃され……。

細密な炭坑の描写の中から、じわじわと迫ってくる恐怖と連続する密室殺人の謎。本格ミステリとホラーの魅力を併せ持った重厚な力作書下ろし長篇。

 下記厚生休暇が取れたので、先週の土曜日から3泊4日の山陰一人旅に行ってきました。旅についてはまた記事にしようと思いますが、その時に持っていった本の一つがこれ、三津田さんの最新作。そもそも三津田さんを読むのが久しぶりだし、京極さんとかの作品と一緒でメインのシリーズ以外はあまり読んでないのですが、この作品に関してはなんとなく刀城言耶シリーズとなんとなく似てる雰囲気だなぁ~と思って購入。
 でもそれもそのはず、あとで知ったのですが、最初は刀城言耶シリーズの作品として想定してたのが、変更になったんですね。

 戦前の話という事、なおかつ満州やら朝鮮の占領下の話が出てきて戸惑ったのですが、読み進めていくうちに「ああ三津田作品だな」という展開になって、比較的一気に読めました。ただ、読了後に思った事はう~~~~ん・・・という感じ。作品としてのリーダビリティはあるし、不可思議な事件の謎の吸引力。もあるし、過不足はないんだけど・・・。

 後半の一人推理合戦だったり今作の主人公・物理波矢多(相変わらず読めない名前・・・)の推理しながら推理するスタイルは刀城言耶に重なりました。
 ただ比較するなら、作品としてではなく、登場人物としての刀城言耶の興味の根本は、ミステリよりも民俗学的な部分だったと思うのですが、物理の場合はどちらかというとミステリの部分に興味を持つキャラクターという違いを感じました。物語の設定・進行上、主人公(物理)は炭鉱に身を投じないといけなかったりというのもあったので、主人公が刀城言耶じゃなくなったのは納得出来ます。

 今作では「黒面の狐」という炭鉱につたわる怪異というか怪しげな実話話が事件の中核として据えられていましたが、この怪異の存在がなんだか薄いというか、結局読者を煙に巻く為の存在だけにちょっとなってるというか。
 もちろん刀城言耶シリーズの方も、とらえどころのない怪異が登場しますが、あちらの方はその怪異が物語を動かす為の中核としてきちんと存在してました。本作の方も、エピソード一つ一つはきちんとイヤ~な感じで描かれているけど、それぞのれエピソードが集合した時に各としての「黒面の狐」が浮かび上がってくるかというの、なんだかボヤッとしてる気がします。このあたりのバランスは作者も狙ってるものだとは思うんですよね。だからこそ、ノンシリーズになったと思うのです。

 ただ、ウエイトを置いたと勝手に思ってるミステリ部分ですが、三津田さんお得意の推理ちゃぶ台返しもあります。ただ、なんだろう、やっぱり肝心の「黒面の狐」の部分がぼやけてるからなのか、あまり切れを感じなくて、ちゃぶ台返しからのどんでん返しも、もしかしたら読者の想定の範囲内(僕は見事に外しましたが・・)に収まってしまったかなと。なおかつトリックそのもが手が混んでいない。真相上、そこまで手のこむものが必要なかったのかもしれないし、ある意味リアリティなのかもしれないけれど、小説として読んだ場合にどうしても「あ~そうですか~」という印象が残りました。

 結局、全体としてどっちづかずになっている感じ。戦時中の日本と満州、朝鮮の関係性なんかは上手く作品の世界に取り込んで消化してるかと思えば、なんだかそこまでの捻りって結局必要だったの、と思ってしまうとこもあったり。

 なんだかほとんど褒めてない感じになりましたが、面白くないかといえばやっぱり面白かった。とても美味しい魚の塩焼きを食べて、最後に気づいたら骨が喉に引っかかって違和感を感じる、なんだかそんな小説でした。




採点  ☆3.7