『小説「怒り」と映画「怒り」 - 吉田修一の世界』(☆なし)


まずはあらすじ。

父・邦彦、母・景子、担任の幼稚園教諭、高校時代の恋人ら、ある時期の山神一也を知る人々が語る、小説「怒り エピソード0 8つの証言」。
山神とは一体、どんな人物だったのか? 残された謎に迫る。 
他に、映画『悪人』『怒り』に出演した俳優・妻夫木聡氏と吉田修一氏の特別対談「祐一と優馬を繋ぐ線」、李相日監督インタビュー「吉田作品の魅力」、映画『怒り』ロケ地訪問記、吉田修一全作品解説などを収録。

『怒り』と吉田修一の世界をもっと楽しむための文庫版オリジナル編集。


吉田修一『怒り』の映画化記念(?)に刊行された本。
内容は下記の通り。

第一章 
小説/八つの証言「怒り」エピソード0 吉田修一

映画「怒り」

第二章
エッセイ/映画撮影現場を訪ねて 吉田修一
東京篇(初出『中央公論』2016年3月号)
沖縄篇(初出『婦人公論』2016年2月23日号)
千葉篇(初出『中央公論』2016年4月号)

第三章
インタビュー/『怒り』と吉田作品の魅力 李相日

第四章
吉田修一全作品解説
小説・ショートストーリー・エッセイ 南風ひかり
映画化作品 真夏八重子

第五章
対談/祐一と優馬を繋ぐ線 妻夫木聡×吉田修一

小説版がとにかくなんとも言えない読後感、よく言えば読者に答えを投げかけた、悪く言えばものすごく放り出された状態だったので、少しはすっきりするかと手に取る。
帯の謳い文句からして映画を見る前に読んでも良さそうだし。

これから公開の映画の部分に関しては先に読んでも問題なし。撮影現場のドキュメント部分は濃い。特に「藤田優馬」と「大西直人」の東京編、妻夫木聡綾野剛の役作りっぷりが凄かった。撮影前から一緒に暮らして、毎日同じベッドに寝て、一緒にオフロに入って、撮影中も手を繋いでたり、キスしたり・・・う〜む、そこまでするか^^;;;特に、李相日監督のインタビューで語られていた妻夫木くんへの信頼感と、妻夫木くんの吉田作品へののめり込みっぷりも印象に残りました。
沖縄編でも「田中信吾」を演じる森山未來もロケ地の無人島で一人生活をしていたらしい・・・すごいなぁ。。
さすがに千葉編に登場する「世界のケン・ワタナベ」はそういう事は無かったようですが^^;;
吉田修一全作品解説については、いかんせん「悪人」と「怒り」しか読んでないので、なんともいいようがありませんでし、そんな詳細に語るものでもないでしょう。

そして本書のもっとも期待していた「怒り」エピソード0とされている「小説 八つの証言」です。物語の発端となる夫婦殺しの犯人、山神一也の幼少からのエピソードを親や学校時代の先生、悪友からの証言などで構成されているのですが

・・・・・で???

このエピソードを「0」部分として発表して本編に影響があるかと言われると正直疑問。確かに本編で語られなかったエピソードばかりだけれども、本編+本作で本編で分からなかった事が補完されているかというとそうでもない。むしろこの手のものにはよくあるエピソードとしか思えない。しいていうなら、最後のエピソードの語り手である父親が垣間見せる一也への愛情がもしかしたら人格形成に影響してる?っていうのを匂わせてくれるぐらいでしょうか?

全体として映画のパンフレット的な要素としては十分ですが、小説版の補完としてはかなり不十分で、構成スタイルからして評価をするタイプの本では無いと思ったので、今回評価はなしにします。

やっぱり映画版に期待するしかないかぁ〜〜〜。


採点  ☆なし