『死者は空中を歩く』(☆3.0) 著者:赤川次郎

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まずはあらすじ。

 あわれなことに、財貨の影の実力者千住忠高の信じているのは金の力だけである。
 それがどうだ、ある日、弁護士に命じて殺人・公金横領で逃亡中の四人の男を広大な邸宅に拉致し、豪華な夕餐を振舞いながら「私を殺してくれ」と依頼したのだ。
 一方、殺人の予告を受けた県警の刑事が邸宅に赴いたものの、平和そのもので・・・・・・だが、やがて意外な展開が訪れる。

徳間文庫あらすじより

 なんだか急に赤川次郎再読月刊突入?。それも比較的有名でない作品。これまた「裁きの終わった日」と同様、あるミステリ紹介本に載っていたので、古本屋で購入。それにしても何処に行っても沢山の古本が並んでいる赤川さんコーナー・西村京太郎コーナー、圧巻です。

 冒頭、赤川さんお得意の複数同時進行で、4人の人間の罪が描かれますが、はっきりいってどこかで読んだようなリズムというか表現、もう完全に赤川節というしかないです。でも決して読めないわけでなく、むしろサクサク読める。
 この本の初刷は昭和55年、なんと30年以上の前の作品。さすがに登場する小道具(例えば公衆電話とかですな)や貞操観念の古さ(笑)など、さすがに時代を隠せないところがある反面、文章や表現なんかは古臭さをあまり感じさせない。やっぱり赤川さんの文章は改めてすごいなぁ、と感心しました。

 登場するキャラクターも実に赤川さんのユーモア・ミステリらしい人ばっかり。やたら一途な天然系なんだけど結構するどいお嬢様、とりあえず悪の魅力(?)で女性と寝まくる男、的はずれな上昇志向を持ってトンチンカンな発想と行動を繰り返す警部などなど。この警部のキャラクターなんて、今でもバカミスやユーモア系で登場してもおかしくないかな、と思ったりして。

 そして登場人物にも読者にも分からない基準で集められた豪邸で次々と起こる事件。いわゆるミッシング・リンク物でこのあたりは実に本格テイスト。そして自分を殺せと言いはなつ大富豪の行動の不可解さや、誰もが怪しい登場人物。まさにフーダニット、ハウダニットホワイダニットですね。
 正直勘の良い人は犯人が予想できちゃうと思うしラストの探偵と犯人の対決で明らかになる部分が結構多かったり、屋敷に隠された秘密が読者にはヒント不足だったりと、それなりに欠点もあります。
 けれども、そこにいくまでに張られていた伏線についてはきちんと拾っていってるし、高い所から飛び降りたまま行方不明になった人物の謎の真相については、シンプルなんだけど、考えてあるなぁと思います。
 ただ、この犯行方法のトリックについては、かなりバカミスに近いというか今やったら全否定されそうな感じですが、当時としてはそれなりに有りだったんでしょうね。多分、当時ボクが読んだら感心しちゃうかも。

 とにかく徹頭徹尾赤川次郎だなぁ、という以外何者でもない作品。なんどか昔の自分を思い出しながら楽しめたかも。
 


採点  ☆3.0