『オーブランの少女』(☆4.2) 著者:深緑野分

イメージ 1

まずはあらすじ。

比類なく美しい庭園オーブランの女管理人が殺害された。犯人は狂気に冒された謎の老婆で、犯行動機もわからぬうちに、今度は管理人の妹が命を絶った。彼女の日記を手にした作家の「私」は、オーブランに秘められたおそろしい過去を知る……楽園崩壊に隠された驚愕の真相とは。第7回ミステリーズ! 新人賞の佳作となった表題作の他、異なる場所、異なる時代を舞台に“少女"という謎を描き上げた瞠目のデビュー短編集。

Amazon用あらすじより

 ブログ仲間のゆきあやさんおすすめの一冊。「戦場のコックたち」の名前は知っていたが、作者の名前も知らなかったし、読んでたとしてもブログをしてなかったらもっと先だったろうな~。

『オーブランの少女』
 ある街の、美しい庭を持つ家に住む老姉妹の姉の無残な死と妹の自死。正体不明の犯人。そしての残された妹の日記に残されていた真相とは・・・。
 作者のデビュー作。少し狙い過ぎな感もある硬質の文章だけれども、とてつもなくやるせない真相と、美しくも崩壊を予兆させる楽園の雰囲気をうまく表現していると思う。特に物語の発端部の異様さとラストの締めくくり場面の温度差は絶品。冒頭に結末がある分、歪んだ美しさが際立っている。

『仮面』
 とある街のとある姉妹を巡る殺人事件の顛末。事件そのものの構成、ストーリーの展開は決して目新しいものではなく、シンプルといっていい。ただそれを包みこむ世界観の作りこみが秀逸。作品全体に漂う退廃感、対照的な姉妹が醸し出すどこか居心地の悪い存在感がその世界観にピタリと嵌っている。

『トマトと大雨』
 雨の降りしきるレストランで起きるちょっとした物語。一つ一つを切り出すと平凡な物語であるけれど、それらが絡みあう事によって、ラストの結末を予想させてくれない。いかにもありそうな物語をここまでに仕上げていて、好みは別として出来は一番かも。

『片思い』
 日本の女子校を舞台に、同性愛を描いた作品。短い短編の中に様々な趣向を取り入れており、ミステリ要素は一番強いと思う。それでも他の作品と同じく登場人物の心の機微や世界観が決してそれだけの物語にはなってないと思う。

『氷の王国』
 ある寒村に死体が流れ着いた事をきっかけに語られる、ある王国の悲劇譚。
 『オーブランの少女』でもそうだが、結末をある程度冒頭で提示しているにもかかわらず、ある部分の描写の騙りによって、物語の真相を上手く隠している。物語が語り終わった後に描かれるエピローグの余韻は、作品集全体の締めくくりとしても味わいを残してくれる。

 デビュー作の『オーブランの少女』も含めて、様々な少女の姿を描いた粒ぞろいの短編ばかり。また殆どの短編について、あえて描いていないであろう部分(『オーブランの少女』の老姉の殺害場面や『仮面』の姉妹の片割れの心情』であったり)が読者に想像の余地を与えてくれて、作品の深さに繋がっている。風景描写などやや文学的表現を意識しすぎているところはあるけれど、デビュー後に改めてミステリを勉強して書いたとは思えない完成度の高さがある。

 ゆきあやさんの言うとおり、恐ろしい新人が現れたもんだ。

 

採点  ☆4.2