シネマ歌舞伎『阿弖流為』


あらすじ

朝廷に抗い続ける蝦夷(えみし)の長 阿弖流為(アテルイ)は 悪か、それとも民を護る正義か

古き時代。北の民 蝦夷国家統一を目論む大和朝廷に攻め込まれていた。そこに、かつて一族の神に背き追放された阿弖流為が、運命の再会を果たした恋人 立烏帽子(たてえぼし)と共に戻り、蝦夷を率いて立ち上がる。一方、朝廷は征夷大将軍に、若くとも人望の厚い坂上田村麻呂を据え、戦火は更に激化していく。戦いの中で、民を想うお互いの義を認め合いながらも、ついに2人が決着をつける時が迫り来ようとしていた。
 

 
キャスト
立烏帽子/鈴鹿中村 七之助
阿毛斗:坂東 新悟
飛連通:大谷 廣太郎
翔連通:中村 鶴松
佐渡馬黒縄:市村 橘太郎
無碍随鏡:澤村 宗之助
蛮甲:片岡 亀蔵
御霊御前:市村 萬次郎
藤原稀継:坂東 彌十郎



 シネマ歌舞伎を見るのは「三人吉三」以来。広島の映画館だと時々しかしてくれないんですよね~。「三人吉三」の時も、勘九郎七之助は出演していたけど、あとの主役級は松也が染五郎になっている。とはいっても、別物だから比べても仕方ないですが。

 「三人吉三」の原作三人吉三廓初買」河竹黙阿弥の傑作歌舞伎。それを串田和美が演出をしたコクーン歌舞伎でしたが、今回は歌舞伎といっても、いのうえ歌舞伎。人気劇団・劇団☆新感線の演出家いのうえひでのりと、座付作者の中島かずきによる歌舞伎風現代劇。2002年の新感線での初演の時は、主役の阿弖流為こそ今回と同じ染五郎だけれども他の役者陣には堤真一水野美紀渡辺いっけいなどの現代劇の演技巧者達が出演。今回はほぼ歌舞伎役者だけで構成されているので、初演時に見てる人は見比べてみても面白いかも(私は見てませんが)。

 1200年ほど前の実在の人物である阿弖流為坂上田村麻呂を通して、朝廷による東北遠征が物語の筋。といっても歴史に忠実というわけではなく、あくまで舞台劇。歴史を知らなくても十分ストーリーは分かる。さらに現代作家の作品なので、台詞も現代語なので言葉の意味が分からないという事も無いはず。

 約3時間超の長尺(途中休憩有り)の割に、ものすごくシンプルなストーリー。ただしそこはいのうえ歌舞伎。派手さとケレン味のある演出・構成でしっかりこちらを惹きつけてくれました。もう演出的には何も文句はありません。「三人吉三」の時は演出だけでなく監督も務めた串田和美が、映像作品としての拘りを見せすぎて、いるのかな?と思う映画的演出もあったけれども、今回はあくまでも良質の舞台作品の記録映画として追求されている気がして、すごく舞台の良さも伝わりました。

 それにしても、歌舞伎役者陣の立ち振舞、台詞回しがカッコ良すぎます。染五郎扮する阿弖流為の北の国を只々守ろうという目的に掛ける情熱、勘九郎演じる飄々としていながらも卑怯な手段を嫌い好敵手・阿弖流為に真っ直ぐ向かっていこうとする坂上田村麻呂の格好良さ、七之助演じる二人を繋ぐ女性、立烏帽子/鈴鹿の気高さ。何処を切り取っても本物です。
 さらには坂東新悟演じる神巫女・阿毛斗の美しさや、片岡亀蔵演じる蛮甲の生きる事への執着、物語に重厚さを加える坂東彌十郎市村萬次郎の名演。七之助や新悟に至ってたは鑑賞後、女子高生達(彼女たちはどうやら勘九郎しか知らないようでしたが)が女性が演じてたどうか語り合ってました^^。

 鑑賞後ほんと思うのは、歌舞伎役者が歌舞伎の演技をするとどんな作品でも歌舞伎になるんだなと。昔なにかの本(マンガ?)で、フランス料理の名人が作るとどんな和食や中華でもフランス料理になってしまう(その逆もしかり)というのを読んだ記憶があるんですが、ほんとにそれを実感しました。

 ここ数年、歌舞伎界では人多くの役者の逝去が続きました。中村富十郎中村芝翫中村雀右衛門といった長く歌舞伎界を支えていた重鎮、さらには市川團十郎中村勘三郎坂東三津五郎といったこれから歌舞伎界を担っていったであろう世代。さらには片岡仁左衛門中村吉右衛門中村福助といった役者陣も体調不良や病気と闘っています。
 特に勘三郎三津五郎はこれから若い世代に芸の真髄を伝えていったであろう存在だっただけになおの事危機が叫ばれました。

 ただ、この映画を見てると若い世代がきちんと育ってるんだな、と実感出来ました。特に勘九郎七之助は偉大な父・勘三郎の死を乗り越えて大きく羽ばたこうとしてると思います。

 歌舞伎を未経験な人も理屈抜き十分楽しめて、なおかつ歌舞伎に触れることが出来る、見て損の無い映画だと思います。



6/25公開 シネマ歌舞伎『阿弖流為〈アテルイ〉』第2弾予告編