『QED ホームズの真実』(☆3.0) 著者:高田崇史

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まずはあらすじ。

郵便配達員として働く三十歳の僕。ちょっと映画オタク。猫とふたり暮らし。そんな僕がある日突然、脳腫瘍で余命わずかであることを宣告される。絶望的な気分で家に帰ってくると、自分とまったく同じ姿をした男が待っていた。その男は自分が悪魔だと言い、奇妙な取引を持ちかけてくる。
「この世界からひとつ何かを消す。その代わりにあなたは一日だけ命を得ることができる」
僕は生きるために、消すことを決めた。電話、映画、時計……そして、猫。
僕の命と引き換えに、世界からモノが消えていく。僕と猫と陽気な悪魔の七日間が始まった。
二〇一三年本屋大賞ノミネートの感動作が、待望の文庫化、映画化! 


Amazon用あらすじより

 いよいよQEDシリーズもこの特別編にて終了。ほんとは前作「伊勢の曙光」で完結してるんだけれど、やり残したネタがあったとの事で特別編として刊行。長さは中編程度です。
 前作で劇的な関係の変化を迎えたタタルと奈々ちゃん。それを受けた今作では、どこか会話の行間の空気の雰囲気が違います。特に奈々ちゃんへのタタルさんへのツッコミっぷりが以前と違ってもう、ね(*^^*)

 今回は特別編に相応しく(?)日本古典の名作「源氏物語」と「シャーロック・ホームズ」のコラボレーションという贅沢っぷり。このシリーズでホームズといえばの緑川友紀子さんが、「ベイカー街の問題」以来の再登場。前回所属していたシャーロキアン・サークルを巡る殺人に巻き込まれた緑川さん。かなりのトラウマを持ったはずなのに、事件後渡欧したイギリスでまたしてもシャーロキアン・サークルに所属してしまうのは流石です。そんな彼女が帰国後改めて所属したサークルでまたしても事件に巻き込まれてしまうのは何の因果なんでしょうか。いや、彼女やタタルさんに言わせれば事件を引き寄せてるのは奈々ちゃんだそうで、あくまでも周りの人は偶然それに巻き込まれてるだけだそうです^^;;
 そういえば今回事件を捜査する警察チームも、「ベイカー街の~」の刑事さんと一緒ですが、緑川さんがツッコむとおり、一人ほど欠けております。シリーズ通して読んでる人はその理由を知っているのでおもわずニヤリの場面です。

 さて肝心の事件と源氏物語やらホームズやらの関連性ですが、今回は実際の事件の方の動機がいつになくしっくり来る感じで、そこにいつものようにぶっ込んでくる歴史(?)の謎については、非常に無理矢理な感じで関連付けされてます。この無理矢理さはある意味シリーズ屈指なのかもしれない。話を聴き終わっても、それでも別方向(現実路線)から推理できるんじゃないかというレベル。まぁ、そこには理由があって、解決の後にタタルさんが明かしてくれますが。

 そして、源氏物語とホームズという、どこをどうしたら関連付けられるのかというネタですが・・・う~む、やっぱり別のネタですね、これは完全に。無理にこれらを2つともくっつけなくてもいいんじゃないかと。一応「紫」をお互いの関連性のキーワードにはしてますが、少なくともホームズの方にはそこまで意味が無かったような・・。
 源氏物語ネタについては、ある程度今までのQEDシリーズの傾向に沿った展開。「紫」をキーワードに「紫式部」「紫の上」「若紫」を絡めて、怨霊なんぞについて説明されている。ただ、今回は「タタラ」だったり「一つ目」だったりが出てこない(主題が民族学的な方向性じゃなく、あくまで文学論の延長線上だから?)おかげで、非常に読みやすく理解しやすいものとなっておりました(笑)。

 問題(?)なのはホームズ論の方です。多分、こちらの方が主題的に大きいはずで、それはシリーズお馴染み、奈々と外嶋さんの会話の時点で伏線が張っているので多分明らか。しかしそこから導き出されるホームズの真実というのが、もう、なんというかシリーズ最強クラスです。あまりに独創的過ぎて、奈々ちゃんじゃなくても頭クラクラになること必死。作者が高名なシャーロキアンの先生に、こんな事を考えたのは高田さんだけです、と太鼓判を押してもらったのも納得です。ほんととんでもない事を考えるなぁ・・・というか、これを楽しめるか楽しめないかはもう読んでみてもらわないと分かりません。

 さて、今回はパーフェクトガイドブックが併録されています。「伊勢の曙光」でシリーズが完結した時に抽選で配布されたやつですが、あまりに限定すぎてファンが熱望、今回の収録にいたったそうです。パーフェクトというには、すごくシンプルな内容ですけど、各巻の目次に隠された謎が分かったのがちょっと嬉しかったです。
 ちなみに各登場人物のプロフィールものっているのですが、それを見るとタタルさんが来年(2017年)で50歳になるそうで、なんだかショックでした・・・。

 

採点  ☆3.0