『クリーピー』(☆3.0)  著者:前川裕

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まずはあらすじ。

大学で犯罪心理学を教える高倉は、妻と二人、一戸建てに暮らす。ある日、刑事・野上から一家失踪事件の分析を依頼されたのを契機として、周囲で事件が頻発する。野上の失踪、学生同士のトラブル、出火した向かいの家の焼死体。だがそれらも、本当の恐怖の発端でしかなかった。「奇妙な隣人」への疑惑と不安が押し寄せる、第15回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。

光文社文庫あらすじより


 第15回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。映画の予告編が気になったので、まずは原作を読もうと手に取りました。

 「奇妙な隣人」というテーマの作品は多いと思うし、作品の根底に漂うサイコパス的な香りは嫌いじゃない。最初は文章の硬さが少し気になったけど、読み進めうるうちに気にならなくなりました。

 とにかく核となる二つの事件(日野の一家失踪事件と隣人一家の怪しい行動)、特に日野の一家失踪事件の如何わしさがすごい。実話ナックルかなんかに載ってる都市伝説のような、現代風怪談のような感じだけれど、今この時代じゃないと感じれないリアル感が覗いている。そういえば、ほんと小さい頃に比べて近所付き合いが限定されてきた気がします。それこそどんな一家が住んでいるかピンとこないっていうのも決して嘘っぽくない時代なんですよねぇ・・。

 そして、この小説の怪しさは隣人だけじゃなく、他の登場人物も何を考えているのか、・・というよりどういう性格なのかが分からない登場人物が多い。例えば結果として主人公を事件に巻き込む事になった刑事もなんだか胡散臭い。急に友人を訪ねてきたり、異様に過去の事件に拘ってみたり、早い段階で表舞台から消えるので、妙な不安感だけを残していく。この不安感が作品のいい意味での居心地の悪さに繋がっていくのだけど。

 そんななんとも現代的なサスペンスがどういう方向に進んでいくか楽しみにしていたら、思いの外早く、事件の真相的なものが見えてくる。まぁ、作品の性質上意外性というのはそこまで求められないタイプの小説だとは思うけど、中盤以降の展開はなんだか別の小説のようになってしまう。とにかくドミノ倒し的に真相が明らかになっていくのだけれども、前半のサイコ的な展開と思いの外結びつきが悪く、いろんな面で帳尻合わせというかご都合主義のように感じる展開が続く。
 ご都合主義的な事は決して悪いとは思わないし、作品の一番の魅力が別の部分にしっかりあれば、それはそれで面白いと思うのだけれど、後半の展開は前半で見せた恐らくこの作品の一番の魅力であろう部分を半減させてる気がする。前半で不気味に見えてたことの真相が意外としょぼかったり、大事な部分が主人公の解説的なモノローグに頼って説得力が弱かったり(とにかく主人公の職業が犯罪心理学の専門家である、という点だけに頼っているように見えるにも関わらず、そこがうまく生かされていない)、終盤に差し掛かって見えてくる登場人物の別の姿も、そこに至る動機や物語の見せ方が弱いので、うまくすればかなり盛り上がっただろうラストもカタルシスを感じない。
 とにかく前半部分は面白いと思うし、そこの部分だけでも読む楽しさはあると思う、この要素だけで押し切った方が、意外性を狙うよりもっと楽しめたんじゃないかなぁ・・・。

 表題は「ぞっとするほど、気味が悪い」というような意味みたいですけど、この作品を読了して思う事は、この作品で一番「スリーピー」だったのは主人公の高倉じゃないのか、ということ。ほんと、この人が一番何を考えてるかわからん。あれほど隣人の事を怪しんでる割には脇が甘く罠に簡単に引っかかったと思ったら、大学のゼミの教え子と能天気にデートを楽しんだり、自分の家から惨死体が見つかったにも関わらず、何の危機感もなく重要人物の所に安易に出掛け、無用の被害者を出してしまったり。。。なんだかとても犯罪心理学を教えてる人のように感じなかったのですが。。。




採点  ☆3.0