『四つのサイン』(⭐3.0) 著者:コナン=ドイル

イメージ 1

まずはあらすじ。

ある日、ベーカー街を訪れた若く美しい婦人。父がインドの連隊から帰国したまま消息を断って十年になるが、この数年、きまった日に高価な真珠が送られてくるという……。ホームズ達が真珠の所有者を捜し当てた時、無限の富をもつこの男は殺され、そこには“四つの署名"が――インド王族秘蔵の宝石箱をめぐってテムズ河に繰り広げられる追跡劇! ホームズ物語の2作目にあたる長編。

kindle版「緋色の研究」あらすじより


 発表順に行くと、ホームズ物の第2作目にあたる長編小説。前作同様に、タイトルはあまり聞きなれない河出書房版(『四つの署名』の方が有名ですよね)で今回も読みました。

 ホームズの知能、推理力は傑出していると言われているけれど、この作品や前作(『緋色の習作』)ではその部分が作品の魅力としてそこまでフォーカスされていない気がする。もちろん、作中でも見ていないはずのワトスンの行動を指摘してみたり、数少ない(と思う)証拠から犯人の行動や特徴を推理する場面もあり、そこでのホームズの推理は『緋色の〜』のそれよりも、さらに洗練されていると思う。

 でも、そんな場面の中でも個人的に印象に残ったのは、ワトスンがホームズの推理力を試すために仕掛けたある悪戯のくだりだった。ワトスンが密かに準備したホームズが絶対に知らないであろう持ち主の時計(しかも推理の材料を減らす為にご丁寧に掃除までしてある^^;;)を推理する場面では、『緋色〜』の事件を通してホームズの推理力を認めつつも、まだどこかで疑問しているワトスンに対して、ホームズは多少の茶目っ気を見せながら対応している。この場面では推理そのものよりもホームズとワトスンの結びつきが時間を通して少しづつ深まっているのを見せながら、ホームズの人間としての魅力が光っているような気がする。

 さて、本編の構成も前作と同様、2部構成となっていて、前半は現在進行形の事件そのものが描かれ、第2部は犯人の独白を中心として、過去の事件や動機について語られる。また、前半の現在の事件部分でも、前作以上に推理部分よりも活劇的な要素にウェイトがあるような気がする。
 ドイルと同時代の作家が誰で、さらに当時の文学の主流であり流行がわからないのでなんとも言えないのだけれども、のこの構成は当時の文学の流れの影響があったのだろうか。ドイルは推理作家だけではなく、歴史作家であったりSF作家であったりという側面も持っているが、前作同様に第2部のどこか大河ロマン(というには短すぎるが)の香りを感じさせる構成も含めて、第1部より第2部の方がバランス良く生き生きと描かれている気がするし、ドイルとしても描きたかったのは実はこの部分だったのでは、というついつい穿った見方をしてしまった。

 この見方がどうかは別にして、ホームズはおそらくドイルが想像していた以上に探偵としての魅力を発揮していくことになり、結果としてドイルも探偵作家としてのウェイトが大きくなってしまったは、もしかしたらドイルの誤算だったかもしれない。

 この小説は数少ない長編小説でありながら、そこまで人気がないのは、もしかしたらドイルが目指していた作品の方向性が読者と求めているものと違ったからかもしれないなぁ。。



採点  ☆3.0