『皇帝のかぎ煙草入れ』(☆4.6)  著者:ジョン・ディクスン・カー

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まずはあらすじ。

前夫ネッド・アトウッドと離婚したイヴ・ニールは、その後向かいの家に住むトビー・ローズと婚約するが、ある夜、ネッドがイヴの家の寝室に忍びこみ復縁を迫る。ネッドに部屋から出て行くよう訴えている最中、イヴは向かいの家で殺害されたトビーの父親と、茶色の手袋をはめた犯人と思しき人物が部屋から出て行くところを目撃してしまう。ところが状況証拠からイヴに殺人の嫌疑がかかり、身の証を立てることができない彼女は窮地に陥る。 

yahoo紹介より

ブログを離れてから数年、最近は海外小説の新訳が一つのブームになってる気がします。どちらかというと海外小説の訳文が少し苦手な僕としては非常にありがたいことで、過去に挫折した海外ミステリが比較的読み易くなっているのは嬉しいのです。

 そんな新訳の一つがこの作品。この作品も昔旧訳で挫折して・・・ということはまったくなく、今回が初読。名作としても名高いこの作品を今まで読んでなかった一番の理由が犯人を知っていたこと。昔の少年向けの漫画(学研?)でネタバレ漫画を読んだ時にこの作品も取り上げられてたのです。

 そうなるとどうしても読む意欲が湧かなかった上に、そもそもカーの翻訳が総じて得意でないという自覚があったので・・とはいえやっぱり有名作ということで、新訳出版を機会に挑戦しました。

 いやぁ〜、非常に楽しい読書時間でした^^。確かに犯人を知っているのでその部分は若干ハンデなんですけど、それを逆手にとって意識しつつ読んでみると表現に非常に気をくばっているのが分かりました。原作がそうなのか、訳文の勝利なのかはわかりませんが、一歩間違えるとアンフェアになりそうなところを上手く表現してフェアに表してるというか。旧訳ではどうだったかのはわかりませんが、読みやすさも含めて感心しきり。

 この作品でのトリックの大胆さと犯人の意外性については異論もあるのかな〜というきもしますが、ともすれば大味でグダグダになりそうなところが上手く結びついていて、読み手を迷宮に連れて行ってくれる感じ。面白さが半減するどころかすごく完成度の高さが感じられて、再読にも耐えうると思います。名作との評価も納得。

 作品全体としてはカーのはったりのきいたおどろおどろしさはまったくなく、むしろヒロインを中心としたラブロマンス色が強い気がします。ただこのヒロインが好印象かどうかはまったく別ですが^^;;全体としても登場人物に意外なほど捨てキャラもおらず、ラストの犯人の末路のあたりにすこーしカーらしさを含んでいるという点でも、キャリアの到達点の一つだと思います。

他にも新訳がでてるし、久しぶりにカーを再読していきたいなぁと思う今日この頃。


採点  ☆4.6