『新参者』(☆4.9)  著者:東野圭吾


まずはあらすじ。

江戸の匂いも残る日本橋の一角で発見された、ひとり暮らしの四十代女性の絞殺死体。
「どうして、あんなにいい人が……」周囲がこう声を重ねる彼女の身に何が起きていたのか。
着任したばかりの刑事・加賀恭一郎は、事件の謎を解き明かすため、未知の土地を歩き回る。 

yahoo紹介より

 相変わらず時間が無くて、積ん読がどんどん増殖する一方の日々が続いてます。DVDの方は結構見てるんですけど、そっちの記事を書く時間もなかなかなのが^^;;
 そんなこんなで、今回の「新参者」も発売されてすぐ買ったのですが積ん読の仲間入り・・・TVドラマが始まったので、先に読んでおかにゃと手にとった次第。

 いやあ、加賀シリーズだけじゃなかく、東野さんの代表作の一つになるんじゃないかなと。
読み終わった直後に頭をよぎったのがなぜか「器用貧乏」という言葉。東野さんについては割といろんなジャンルの小説があって、ほぼどれも水準以上の作品。逆にいえばこれっていう作品が以外と少ないのかもという意味で、この言葉が浮かんだのかな~。ただ貧乏というにはクオリティが高いから、正確には「貧乏」ってのは当てはまらないと思うんですが。

 今回の作品で特に際立っていたのが心理描写の積み重ねの部分だったと思います。過去の作品については、ストーリーやロジックについては評価が高くても、心理描写や人間の描き方については、いろいろと評価が分かれる事が多かった印象があります。逆にそういった部分をあえて排除した「白夜行」は逆に印象の強い作品だったですし。

 それが今回は、メインとなる事件よりもサブストーリー(短編としてのそれぞれの主題)における人間の思いが生み出すちょっとした謎を巡る物語がどれも秀逸。
 「煎餅屋の娘」の祖母と孫、「瀬戸物屋の嫁」の嫁と姑、「時計屋の犬」の主人夫婦の会話のどれもが、日本橋という街が生み出した情緒にはまっていて生き生きしているし、それがきちんと物語の伏線として効果的になってるんですよね。

 中でも個人的に好きだったのは、「洋菓子屋の店員」になるのかなぁ。長編としてみても核の一つとなるエピソードですが、章の最後に明らかになる峯子の気持ち、そして洋菓子屋の店員が訪れたカップルの男性を見て思う一言に涙が溢れてきました。やるせないんだけど暖かい感じ・・・これは全編に通じることだと思います。

 そんな作品の根幹を支えてるのが加賀恭一郎。数少ないシリーズ物の主人公ですが、今回はまた一段とかっこいいというかなんというか。日本橋という舞台、そして人情に溢れた街の空気にはまっていて、とても新参者という感じはしません^^;;
 この事件を解くのがもし加賀じゃなかったら・・・と思わせるぐらい素敵ですね。これまでの加賀の歩んで来た道を思い返しながら読んでると、日本橋で出会う人々に対する温かい視線が心に染みてきて。この感じは今までの東野作品の中でもそうは無かったですね。とにかく完成度が高いです。「容疑者Xの献身」もよかったですが、この作品でこそ直木賞を取って欲しかったと思うぐらいです。

 ただ、少しだけ不満を感じたのは長編として見たときに、メインの事件の犯人の周辺が作品の雰囲気から少し浮いたような印象を受けたのと、短編によっては長編としての余韻にそこまで結びついてないんじゃないかなと思ったことでしょうか。

 といっても読後感の良さから考えたらそんなのは些細な事に思えてしまいます。
 とにもかくにも、加賀恭一郎に乾杯な作品でした^^

採点  ☆4.9