『君の望む死に方』(☆4.4)


まずはあらすじ。

私は君に殺されることにしたよ。しかも殺人犯にはしない──。
膵臓ガンで余命6ヶ月──。〈生きているうちにしか出来ないことは何か〉

死を告知されたソル電機の創業社長日向貞則は社員の梶間晴征に、自分を殺させる最期を選んだ。彼には自分を殺す動機がある。殺人を遂行させた後、殺人犯とさせない形で──。
幹部候補を対象にした、保養所での" お見合い研修"に梶間以下、4人の若手社員を招集。日向の思惑通り、舞台と仕掛けは調った。
あとは、梶間が動いてくれるのを待つだけだった。だが、ゲストとして招いた一人の女性の出現が、「計画」に微妙な齟齬をきたしはじめた……。


『扉は閉ざされたまま』の続編・・・と言っていいのかどうかわかりませんが、探偵役(?)を勤めるのは前作で異色の探偵っぷりを発揮してくれた優佳ですし、ちょこちょこと前作で登場した名前も出てくるから続編なのか。
どうでもいいが、カルフォルニアに出張してるという優佳の彼氏、もしや・・・・
いや、そこは考えないようにしよう。

プロローグ、保養所から死体が発見されという電話が警察にかかる。
そして物語は一転、登場人物達がこの保養所に集合する場面にさかのぼる。

あらすじを見ただけで、この社長が考えてることの身勝手さに苦笑する。
ただ、犯人役と氏名された梶間が社長に対して明確な殺意を持っているということで、かろうじて中和されてるような気がしないでもないです。
前作でもあったのですが、このシリーズに関しては著者のロジックにおいて付きまとう人間描写の違和感を補う工夫がされているような気がする。
それは結局ロジックのみを徹底的に昇華させることによって、マイナス部分を無視して読ませるということになるのかもしれない。
そういった意味では、たとえば「インシテミル」よりも数段上のように思います。

以下、途中までネタバレ。








この小説を読んでいると、梶間を犯人にさせないで自分を殺させる・・・
という設定の割には、日向の建てた計画の微妙な杜撰さが気にかかる。
普通に警察が捜査したら、ゼッタイにバレると思う。
実際この点に関しては、クラマックスで優佳が日向に指摘する。
そして、そこから明らかになる日向のもう一つの狙い。
ここまで心の歪みが突き抜けてしまうと、違和感を超えて寒気すら感じてしまうなあ。
そして、それを受けてのもう一人の人間狂気(←当て字)の優佳の行動といったら。
ある意味倫理とかなんとかをブチ壊しまくり。
でも逆に、優佳は職業探偵でもなんでもなく、ただの女性なのである。
だからこういった身勝手な発想も許されるのかもしれない。
ただ、ぶちきれた優佳が叫ぶ「なぜ日向の邪魔をするのか」という理由に関しては、前作を読んでる人はついついツッコンでしまうかもしれませんが。


ネタバレ終わり


とにかく強烈に居心地が悪いんだけど、絶妙というしかない終わり方といい、著者のマイナスな特性をプラスに転換した小説だったと思う。
正直フザケルナ~~~~~と叫ぶ人もたくさんいるとは思うのだけれども、意外と年末のランキングのダークホースになるのではと。
著者の作品のなかでは一番の傑作だと思うな~。



採点  ☆4.4