『神々の殺人』(☆2.5)  著者:篠田秀幸


まずはあらすじ。

 
二〇〇一年九月八日、名探偵・弥生原公彦と探偵小説家・築島龍一の元に、警察庁の捜査官二人が捜査協力の要請にやってきた。
九月二日に九州で起きた弁護士殺人事件の前に、殺人予告状が送られてきており、犯人は、闘いの相手に弥生原を指名しているのだという。
今後、「国辱の記念日」に「国賊」を一人ずつ抹殺してゆく…という犯人に弥生原が立ち向かう!!
稗田阿礼を名乗る連続殺人犯の闇と「記紀神話に潜む日本国家の起源」にせまる、本格ミステリーの傑作シリーズ、待望の第十弾。 


まったくといっていいほど、書評をみない篠田さんの「弥生原公彦」シリーズ第10弾。
実際このシリーズはこれを含め10作出てるわけですが、私はそのうち8冊を読んでおります。
しかしながら、面白いと思ったことはないというか・・・いつも読み終わって苦笑してしまう。
なにしろ私の『苦手な名探偵ランキング』では、弥生原が1位ですからね。じゃあ、なんでそんなに読んでるんだと言われるとなぜなんでしょう。
ま、そんなこんなはともかく、ゆきあやさんの『蝶たちの迷宮』の記事に触発されたわけではないのですが、積読本の中から引っ張り出しやっと読了。

いやあ~、さすが篠田さん。あいかわらずかましてくれるぜ^^;;;
まずなによりツッコミたいのが著者の言葉。
引用すると

これは「非常に危ない小説」です。どの程度に「危ない」かというと、もしこの作品が他人の手によるものでしたならば、「この作家さんはこんな危ないことよく書くよなあ」と思うぐらい危ないです。


ううむ、わかったようなわからんような、なんとも味わい深い喩えですな(笑)
続いて、

今回は趣向を変えて「名探偵VS警察庁・県警本部」という警察小説テイストの本格派探偵小説にしてみました。どうか危険な香りを存分にお楽しみください。禁断の味わいかも?


「名探偵VS・・・」とかかれてますが、作中では一向に対立してません。っていうか、捜査会議に参加したり(しかも相棒の築島くんも一緒)や事情聴取を委託(!)されるぐらい仲いいんですが^^;;;

事件は三部構成。冒頭に犯人の独白が入り実際の事件が・・・という構成。
日本神話に基づいた場所で発見される死体は、首を切断、腹を切られ、口の中には関係する書物が!!
ううむ、さすが稗田阿礼を名乗るだけのことはあります。しかし現場に残された本には小林よしのりの『戦争論』があるあたりがお茶目です。
しかし、稗田阿礼といわれてピンとくる一般読者もいないと思うんですがな~。犯人(あるいは作者)のネーミングセンスはステキすぎます。
ちなみに稗田阿礼古事記日本書紀の原点となる記録を記憶し、記紀が編纂されたさいには内容を暗誦してその成立に貢献したというとてつもない記憶の持ち主です。

現実の事件においては、犯人が分かりやすかったり、警察の捜査体制が悪い意味でドラマティック(興奮しない「踊る大捜査線」?)だったりと欠点はあるんですが、これまでのものに較べたら破綻は少ないかなという気がしないでもありません。ただ叙述の使い方は下手なので、もう遠慮した方がいいと思うのですが^^;;;

しかしこの小説の驚嘆すべきは実際は事件と関係の無いところにありました。
このシリーズは基本的にワトソン役の小説家築島くんの一人称で書かれているのですが、今回の築島君、事件の考察をしてる途中になんども妄想大暴走をかましてくれます。靖国問題しかり戦争史観しかり従軍慰安婦問題しかり。事件を整理中いきなり戦争映画の正しい見方を吼えたかと思えば、靖国問題従軍慰安婦問題について吉本隆明を「バカ」だの「アホ」だのぶった切る。そして小林よしのり賛歌。
一通り吼えると、「話が脱線してしまった」とのたまり、再び事件の考察に戻る。

確かにイロイロな意味で危険な小説かもしれない。
いや、まったく事件に関係なくはないんですけど、他の部分に比してこの部分の筆の乗り具合の異様な熱気がとっても印象に残りますぞ。
しかもその主張のほとんどが作中でも取り上げられている、よしりんの「ゴーマニズム宣言」や「戦争論」からの影響というかまんまの主張であり、著者の言葉で語られてない感じがしてしまうのが、また苦笑を誘う。

この小説以来、毎年最低1冊はでていたこのシリーズが発売されとらんのですが、危険すぎたのか、この小説。

まったく関係ないが、地域の図書館にはこの人の本が1冊も無い。
久しぶりにシリーズを読み返して、書評を埋めてみようかと思っただけれでも、残念。
その作業はゆきあやさんに委ねることにしよう。


採点  ☆2.5