『噂』(☆4.8)   著者:荻原浩



まずはあらすじ。

レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」。
香水の新ブランドを売り出すため、渋谷でモニターの女子高生がスカウトされた。口コミを利用し、噂を広めるのが狙いだった。
販売戦略どおり、噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された。
衝撃の結末を迎えるサイコ・サスペンス。

文藝春秋紹介より

桜庭さんもそうですが、荻原さんも『コールド・ゲーム』以来読んでなかったですね~。
まあ、桜庭さんに比べると読んだ作品自体もそそられなかったからというのもありますが^^;;;
とにかく、べるさんの記事が非常に面白そうだったので、早速借りてみました。

いやあ、当たりです。
最初から最後まで一気読み。非常に面白かった。
とにかく読みやすいシンプルな文体もさることながら、登場人物のキャラ設定がいいですね~。
ともにやめもの所轄の巡査部長と本庁の警部補。コンビ物というと一人がワトソンで、もう一人の刑事(探偵役)に振り回される、もしくは所轄と本庁の葛藤が・・・というのが定番ですが、ある種同じ境遇にいる二人ということで、むしろお互いの欠点をお互いの長所で補うあう関係になってて、とっても微笑ましい。
またそれぞれ男と女ということで、それぞれの視点で事件の真相を掴んでいくという展開が非常にしっくり。
二人のキャラクターも背伸びしてなくていい感じ。特に男やもめで女子高生の娘を育てる小暮が、娘やそれと同世代の女の子達に振り回される姿がなんとも微笑ましい。
ムリに若い子の言葉を使って、逆にからかわれる姿がもう・・・やっぱりこの世代の女の子は無敵ですな・・・。

事件の核となるのは、ある化粧品会社が広報戦略で流した噂通りに事件が起こってしまうというところ。
こういった口コミを使った手法は実際に有効であるし現実にも使われてる。小説というよりはホラー映画の定番の展開の一つかもしれない。
本作も連続猟奇殺人犯を追う過程は本格なんだけれども、作品全体の空気はタイトル通り「噂」から端を発したホラー・サスペンスの方が強い感じ。
それでも、真相が明らかになる過程は技巧を凝らしたアンフェアぎりぎりの展開で、本格ファンにも楽しめると思います。
犯人自体はある程度絞られるから(サイコ・ホラーとしてみれば、もっと怪しい人は増えますが)純粋な意外性という意味では少し弱いかもしれないですけど。
犯人であるレインマンのキャラクターの弱さや、広告アドバイザー(?)の社長や秘書たちが後半腰砕けな存在になってしまうのはちょっともったいない気もしますね。

むしろ作品にこれでもかと登場する高校生達のキャラが立ちまくってる。
高校のクラスメイトの友情という言葉の希薄さや、逆に渋谷センター街を跋扈するギャル(死語?)達の存在感と言葉使いはよく研究してるな~と(実際は私も良く知りませんが)。
特に彼女たちの集団が、警察署に押しかけるくだりは好きでしたね~。
実際、こんなとこに出くわしたら圧倒されますわな^^;;;

さてさて、本書の本当の売りは最後の1行らしい。
べるさんの記事でもそう書いてあったのだけれども、実は最初読んだときは、ラストのセンテンスで「ほぉ~~~」と思っただけで気づかなかったんですよ^^;;;
で、読み終わったあとに「あれ?」と思って、解説で「気づかない人が意外に多い」みたいなことを書かれて、「やべぇ、スルーした???」と思いもう一度読み返したのです(情けない)。
そして・・・

おぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!

なんじゃこれは!!
いろいろな意味で世界一変。
ココがあるかないかで、読後感すら一変!!
やられたぜ!!
その直前のセンテンスがとっても暖かだっただけに、レインマンの中途半端さを補ってあまりあるインパクト。
大変おいしゅうございました^^




採点  ☆4.8