『モンスターズ』(☆3.0)  著者:山口雅也



まずはあらすじ。

誰のなかにも潜んでいるモンスター、それに乗っ取られた時に始まるミステリ―
深く、濃く、そしてゆっくりと謎は深まる…
『ミステリーズ』『マニアックス』に続くシリーズ第3弾

yahoo紹介より

続いても山口氏の3月に発売された新作。
キッド・ピストルズ」が13年ぶりなら、こちらは「マニアックス」以来10年振りの「M」シリーズ第3弾。
山口さん曰く『play』は、シリーズ作品ではなくスピンオフだそうな。あ~そうですか、としかいえません(笑)。

しっかしこれまた最初の2つを綺麗に忘れてる。
結構面白かった記憶があるのにな~。とりあえずこれ読み終わったら再読してみよう。
てな感じで、今回も白紙で望みましたが・・・

いやあ、これも趣味な作品集ですな~、これ。
モンスターはモンスターでも、直接的な意味ではなくあくまで心理的なもの。
そういった意味ではいまさら目新しくも・・・と思ったら、やっぱり初出が何年か前の作品が多かった^^;;

まずはドッペルンゲンガー。やっぱり心理的闇といえばドッペルゲンガーでしょう(笑)
いわゆるもう一人の自分と出会ったら死期が近いというやつですな。誰でも知ってる(?)ネタを捏ね繰り回して、二転三転する展開は面白かったです。
ラストの居心地の悪さは結構ちょっと予想外の展開だったかも。
続いてハードボイルド・タッチの『半熟卵にしてくれと探偵は言った』。とはいってもタイトルから想像できるように、まっとうなハードボイルドからは少しずれている。
とにかくどこか据わり心地が悪いというか、安いのだ。しかしながらこれはゼッタイに確信犯。あまりに安い(ベタな)ラストに至って、その安さが据わり心地と相まって不思議な魅力をかもし出してる。個人的には収録作の中で一番好きだった。

と、ここまでの2編は個人的に好きだったのだけれども、続く2編『死者の車~ある都市伝説~』『JAZZ』でその雲行きが怪しいことに^^;;
『死者~』はどこかで聴いたような都市伝説を積み重ねて意外なオチに結びつくんだけれども、このオチが思ったほどに座らない。
これまた確信犯な安いオチなんだけれども、だからどうしたというかなんというか・・。
『JAZZ』に至っては、もはやほとんど趣味な作品。後書きによると、どうやら氏が初めて原稿料を貰った小説らしいのだけれども、タイトル通りJAZZの世界を意識した散文的な物語がA面・B面というアナログ・レコードを模して構成されてる。しかしながらあまりに抽象的すぎて、結局何がなにやらわからないままだった。ビリー・ホリディはわりと聴いてたのでA面はまだなんとかだったけど、B面にいたってはもう・・・。

あまりにJAZZがわからなかったせいか、まっとうな小説(?)になった『箱の中の箱』に一安心。京極作品に登場したアノ人のように箱に取り付かれたヤツらのお話。
内容的には芸術論を箱に喩えて議論を戦わせる抽象的なパートがほとんど。ただ、割とわかりやすいのでそんなに置いてけぼりにはされない・・・だけど、わりと想像できるラストまで含めて、う~ん・・・「モンスターズ」のテーマからすると少しピンとこないなぁ・・・。
いやこれはここまでの短編集を通じて感じるところだったんだけれでも・・・

そんな疑問が最後の表題作で解決することに。
第2次世界大戦末期のナチス・ドイツを舞台にしたこの小説、これまでの作品とは一変してより直接的なモンスターが登場します。
なにしろ、本物(?)の吸血鬼・人狼・クリーチャーが登場するは、それを生み出したのがヴァン・ヘルシングだったりフランケンシュタイン博士3世だったりするから、その手が好きな人にはたまらない(?)展開。そんなやつらが跳梁跋扈するからには殺人事件もまともじゃない。なにしろ犯人が○○だったりするからには、もはやバカミスに近い。
そんなトンデモ世界を描きながら、一方でヒトラーの苦悩を描き、それが史実的噂に基づいて強引に纏め上げられるさまには、結構ほぉ~と思っただけれども・・・

えっ、結局「モンスター」ってこのことをいいたかったのか???と脱力しきりな議論が・・・
最後の最後でなんとも居心地の悪いオチだなぁ・・・。

トータルでとにかく良くも悪くも居心地というか据わり心地の悪さを貫いたかのような作品集。
これは著者の後書きにもそれらしい文章もみえるし、確信犯なんだろうな~。
この据わり心地の悪さに「モンスター」を感じ取れという事なんでしょうか。
ううむ、みなさんはかんじとれるでしょうか・・・。


採点  ☆3.0