『キッド・ピストルズの最低の帰還』(☆3.2)  著者:山口雅也



まずはあらすじ。

よく似ているようで全然違う、パラレル英国にようこそ。キッド・ピストルズとピンク・ベラドンナが、遂に還ってきた!―
今回もまた、マザーグースの唄声響く、難事件を引き連れて。
奇才・山口雅也が満を持して放つ、キッド・ピストルズ13年ぶりの大復活。

yahoo紹介より

実に13年ぶりのキッド・ピストルズ
有栖川氏の『学生アリス』シリーズもいい加減長い間待たされたが、こっちはいきなりの復活っていうのが強くて、待ったという感じじゃないかも(笑)。
しかも「学生アリス」と違って、過去のシリーズ作品の内容をまったくもって覚えてない。
このシリーズが出てた頃は、『生ける屍の死』の衝撃もあって自分の中で一番山口雅也が盛り上がってた気がします。
時間が過ぎるのも早いですね~。

とにもかくにも、今回もシリーズのお約束に則り、パラレル英国を舞台にマザーグースの詩を下敷きに事件が繰り広げられます。(←これぐらいは覚えてる)
なにしろさっぱり忘れてるシリーズなので、過去の作品のレベルがどれぐらいだったかも覚えてないもんで、シリーズの中で比較できません。
1冊の作品としては、面白いけれども飛びぬけてるかといわれると・・・ってところですかねぇ。

一発目から、ミステリで一番有名な見立てネタと言っても過言ではない『誰が駒鳥を殺したか』で「最低の帰還」を果たすキッドとピンク。
冒頭から「おおっ」という展開でファンを掴み、証言者として蠅男まで登場させてしまう徹底ぶり。ミステリの出来としてはまあ平凡っちゃ平凡なんですが、「見立て」の使い方とパラレルワールドという設定の絡みは収録作中1番じゃないかなと思ったり。
逆にミステリとして秀逸なのは『教祖と七人の女房と七袋の中の猫』ではないでしょうか。袋小路の道を進むトラックの車上から7人の子供が煙のように消えるという不可能系犯罪。事件の真相とともに明らかになるトリックは、一歩間違えればバカミス系の大掛かりなものだし矛盾もなくはないのだけれども、伏線やヒントは散りばめられていて、なにより不思議とこの世界にしっくりはまる。ラストのキッドの行動につながるシニカルな背景もらしい出来具合。

この2作に関しては、ボリュームの点も含めて水準以上の短編になってるけれど、他の3作については少々物足りない。
『泡のアリバイ』に関しては、アリバイ証明の前提が遊び心のあるものになってるわりにはそれがラストまで巧く生かされず、ただのチョイ理数系の短編になってる。『鼠が耳をすます時』では、そのトリック自体は面白いけれどボリューム的に圧倒的に不足しているし、マザーグースの詩との関係も駄洒落程度にしかなってないのが残念。特に『鼠が~』はもう少し膨らまして捻ればユニークな作品になったと思うんだけれどなぁ。
『超子供たちの安息日』に関していえば、「超能力」というミステリのお約束から外れた世界観を採用。同じく「死体が蘇る」というアンチミステリな設定を逆手にとった傑作『生ける屍~』があるだけに期待したのだけれども、ロジックを生かすだけのところに留まってしまったのはもったいない。大人VS子供、普通VS異端が反転していくパターンは「教祖と~」に近いんだけど、まっとうに書きすぎたのかなぁ。登場人物たちの推理に関しても考えなければならないところをなかなか指摘しないという、ちょっと矛盾気味なところもあるしなぁ。チグハグです。

なんだかんだと結構辛口になった気がしますが、やっぱりかつてファンだった人間としては、彼らに再会できたのは嬉しいなぁ。
それにやっぱりこれは山口雅也だ~という作品ばかりなのも、ある意味すごいかもしれませんね。
オススメするには弱いとは思うんですが。。。
でも、英題はカッコイイよね。



採点  ☆3.2