『13階段』(☆4.4)   著者:高野和明



まずはあらすじ。

犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。
だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。二人は、無実の男の命を救うことができるのか。
江戸川乱歩賞史上に燦然と輝く傑作長編。

yahoo紹介より

うめぇな~、これは。。。

個人的に食指を動かされない江戸川乱歩賞
さらには映画を見てしまったこともあり、食わず嫌いの本作でしたが、ゆきあやさんのオールタイムベスト18位、さらには冴さん、よもさんの信頼すべきブロガーさんが高評価ということもあって読みました。

いや、おもしろかったっす、ほんと。
系統的には社会派の作品。その部分の掘り下げも丁寧かつ迫力があるし、それでいて本格好きにも十分楽しめる展開の妙。
さらには「平易かつ重厚」(©宮部みゆき)な文章が、作品の敷居をいい意味で低くしてる。
うん、推理小説のお手本みたいな出来栄えですな。

序盤は刑務官と仮出所中の青年という組み合わせの異色さと、死刑執行までにある死刑囚の冤罪を晴らさなければいけないというタイムリミットの緊迫感が物語にスピード感をつくってます。その部分だけでも一級の出来栄えなんだけれど、それと平行するように表出してくる死刑制度の矛盾と欠陥、さらには犯罪を犯した受刑者の心の揺れが、素晴らしい迫力と緊迫感で読者に問いかけてきます。
さらには後半の怒涛の展開がとにかく凄かった。
若干強引な部分や冤罪事件の真犯人像が弱いかな・・・とは思ったけれど、パズル的な要素と人間心理のあやが絶妙に絡み合っていて、とにかく濃厚。
これだけ考えさせられるのに、こんなに読みやすい小説はホント貴重なのでは。
さらにはエピローグ的な章で語られる後日談あるいはもうひとつの真相の重さにクラクラしていまいました。。。
この事件の抱える問題は、ひとつのきっかけで自分自身に降りかかってしまうのではないか。
三上の、南郷の心の闇ひとつひとつが自分自身を映す鏡のようで・・・う~む。

自分が死刑制度についてどう思うか・・・。
難しいところです。心情的な部分を考えるとやはり有りなのでは・・・と思う反面、この作品に登場する南郷のように死刑執行に携わることによる第3者のトラウマを考えると果たして継続すべきなのか・・・う~ん、個人的には死刑制度の基準を明確にしていくか、終身刑を導入すべきなのでは・・・と思いました。
ただそれはそれでいろいろと問題がでてきてしまうそうです。それがなんだと言われると困るけれども。。

いや、ほんとこれはいい小説だと思いました。
ミステリとしてでなく、死刑制度に関するフィクションとしても。


採点  ☆4.4