『山魔の如き嗤うもの』(☆4.3)



まずはあらすじ。

忌み山で人目を避けるように暮らしていた一家が忽然と消えた。
「しろじぞうさま、のーぼる」一人目の犠牲者が出た。
「くろじぞうさま、さーぐる」二人目の犠牲者―。
村に残る「六地蔵様」の見立て殺人なのか、ならばどうして…
「あかじぞうさま、こーもる」
そして…。六地蔵様にまつわる奇妙な童唄、消失と惨劇の忌み山。そこで刀城言耶が「見た」ものとは…。
『首無の如き祟るもの』に続く渾身の書き下ろし長編。

yahoo紹介より

昨年度のミステリ界で大絶賛の嵐。
ブログ仲間の皆様もこぞって賞賛、私も私的年間ベスト第2位に挙げさせていただいた、三津田氏のあのシリーズが帰ってきました。
内容は前作でもほのめかされていた、「山魔」の謎でございます。
前作があまりにも素晴らしかった事、そしてiizuka師匠と冴さんというブログ界の巨匠がわりと逆の感想を述べられていたので、期待半分不安半分でしたが・・・
いや、私は非常に楽しめました。いや、残念ながら前作に及ばないと思うけれども、年間ベストに食い込む可能性は十分あるかなと。

まぁ、とにかく普通に読みやすい(笑)。ここまで格段の進化を遂げられると、それはそれで淋しい気分になるから、身勝手なんだけど^^;;
iizuka師匠もおっしゃられているとおり、その読みやすさの分だけシリーズのウリのひとつ(?)であるオドロオドロしさというか禍々しさが薄くなったかな~とは思うけど、その分かなり整理された本格に仕上がってるので、案外とミステリ入門書的なとっつきやすさと、玄人好みの面白さが並列されてるんじゃないでしょうか。

前作の一転突破のロジックも見事でしたが、今回の46の疑問点の収束のさせ方も見事。
物語と謎解きの描き方のバランスとしても前作よりはいいだろうと思うし、ストーリーの破綻的なものも前作より無い気がする。
なにより、今回の方が考える気にはなりました(笑)。

それにしてもやっぱりこの人は横溝だよな~。いい意味で。
登場人物の中に旅芸人一座がいたりするのはあの作品を思い出させるし、積み重ねられるトリックはどれも横溝先生が好んで使ってそうなものだし。
終わってみれば新鮮味はないけれども、とても懐かしいものを読んだ感じ。
とはいっても、これだけのネタや伏線を綺麗にまとめる才能はやっぱり傑出していると思います。
これからもこういった感じで進んでいってほしぃですね。
でももう少し読みにくくてもいいから、怖さをもっと残して欲しいですけど^^

さてさて誉めてばっかりですが、若干不満な部分も。
もちろんスッキリしすぎたのも残念といえば残念なんですけど、それ以外もチラホラ。
(以下ヒントが入ってます。)








まずなんといっても、ラストの連続するドンデン返しが作品としていい効果を生み出してないということ。
iizuka師匠も指摘しておられたが、同じ材料を素材に推理が反転するには、その要素が薄い。
特に最後に探偵がたどり着いた真相に関していえば、もっと早い段階で可能性として検討されなければならないところであり、この段階までその可能性に気づいてないのは、やはり探偵、あるいは警察の手抜きもいいところじゃないのかなと思ってしまう。
個人的には2番目の解決が好きかな~。あまりにもベタな展開だとは思いますが、そこがまた古典っぽいというか(笑)
それから、6つの穴のクライマックス場面の最後の展開の直前に丁寧にそれを予感させる記述をしなくてもいいんじゃなかったかと。
なんとなくそんなオチは予想できるのにあまりに親切すぎて、逆に怖さを半減させてしまったような。








う~ん、感想を振り返ると、実に似たようなものになってしまいました。
でもこの小説の感想って、わりと冴さんの感想とiizuka師匠の感想のどちらかに綺麗に分かれてしまうような気がします。
つまりはそれぐらいストレートな小説ということかもしれません。





採点  ☆4.3