『島田荘司 Very BEST10』(☆4.0)



まずはあらすじ。

島田荘司がその"ゴッド・オブ・ミステリー"とも謳われる25年に亘る全キャリアを通じて発表したすべての短中篇66作品から自ら選んだ"著者選5作品"に、読者投票にて選ばれた"読者選5作品をプラスした全10作品をコンプリート。
「前書き」に加えて、収録全作品への著者コメントも新たに収録。
これぞまさに「島田荘司veryBEST」。本格ミステリーの地平に放たれた10の"奇跡"。

著者渾身の最新長編小説
yahoo紹介より

最近の島田作品の旧作改訂版の怒涛の発売は目を見張る。
現在刊行中の全集の中から単行本化された、南雲堂の『占星術』『斜め屋敷』。
そして講談社ノベルズから装丁もあらたに出版された『占星術』『斜め屋敷』『死者の飲む水』。
正直ここまでくるとその意図がまったく意味不明に感じてしまうのだけれども、その皮切りともいえるかもしれないのが、この短編集だと思う。

読者投票によって選ばれた<Reader's Selection>
1位 数字錠
2位 糸ノコとジグザグ
3位 疾走する死者
4位 ある騎士の物語
5位 最後のディナー
(6位以下はこちらで→http://shop.kodansha.jp/bc/kodansha-box/shimada.html)


そして著者自ら選出した<Author's Selection>
1 大根奇聞
2 暗闇団子
3 耳の光る児
4 傘を折る女
5 山手の幽霊


の計10作品が収録されている。
ほぼ全篇に渡って加筆修正がなされているものの、どれも既出の作品である。
それぞれの作品への感想はここでは簡単に済ませておくけれども、改めて読み返してみるとどの作品も味わい深かった。

特に読者選出の5作品は、やはり読み手の目線で選ばれただけあって、どれをとっても納得できる。
あらためてこの5作品を見ると、「疾走する死者」を除くと、トリックそのものよりもストーリーそのものの魅力が溢れた作品のような気がします。
もちろん『数字錠』『ある騎士の物語』の移動トリックなんぞはその発想の面白さがあるんですけれども、それよりも犯人がそこに至った過程、そしてそれにたいする御手洗の行動が心に残ります。
個人的には『糸ノコ~』『疾走する~』にかえて、ダークな展開が強烈だった『毒を売る女』と『山手の幽霊』をx入れたいところだけれども。。。

それに対して、著者線選出の5作品は、初期の短編集からの作品は少ないものの、島田作品の歴史を纏めたような作品のような気がする。
強烈なロジックが印象深い『山手の幽霊』、近年の島田作品の傾向ともいえる作中作的な構成の「大根~」「暗闇団子」。
島田氏が提唱する21世紀型本格の箱型的な『耳の~』『傘を~』。
面白いなと思うのは、こちらの収録作もトリックよりも登場人物の行動の印象の方が強い作品が多いということ。
例外的には『耳の~』だけれども(これは再読してもやはり面白いとは思えないな~)、『大根~』や『暗闇~』はトリックそのものは緩い。
このあたりは、かつて氏が唱えていた「魅力的な謎と論理的な解決が生み出す魅力が本格ミステリである』というところから少しずれているように思う。
それでいながら、氏がこれらの作品を選んだというところは、初期の頃の壮大な物理トリックのインパクトから、人間そのものにトリックが内包していく形にその理想系を氏が見ているのかもしれないと思う。

しかし、こうして10作品の短編を改めてみると、その作風やスタイルに変化があろうとも、その根底にある島田作品の色は、好き嫌いを超えて強烈な個性をかもし出している。
時にはそのドンキホーテ的な言動が物議をかもし出すこともあるけれども、島田氏自身の代わらない思いはどの作品からも感じ取れる。
「ゴッド・オブ・ミステリー」、この称号は伊達ではない。。


採点  ☆4.0