『妖怪変化 京極堂トリビュート』(☆3.7)


まずはあらすじ。

西尾維新が!あさのあつこが!京極夏彦の作品世界に挑戦!!各界を代表する超豪華執筆陣。これはもう、おもしろくないはずがない。

yahoo紹介より

そろそろ就職活動が切羽詰ってきたなか、腰を落ち着けての読書がなかなかできません^^;;
そんな中読んだのが、京極夏彦のトリビュート作品である本書。
ちなみに参加した作家は以下の通り。

●「鬼娘」 あさのあつこ
●「そっくり」 西尾維新
●「『魍魎の匣』変化抄。」 原田眞人
●「朦朧記録」 牧野修
●「粗忽の死神」 柳家喬太郎
●「或ル挿絵画家ノ所有スル魍魎ノ函」 フジワラ ヨウコウ
●「薔薇十字猫探偵社」 松苗あけみ
●「百鬼夜行イン」 諸星大二郎
●口絵 石黒亜矢子小畑健

さてさて、なんとも微妙な面子といえば面子です^^;;
ちなみに、石黒さんと小畑さん、最初読んだ時はどこに?と思ったのですが、口絵だったんですね。
いや、本の著者の部分には口絵って書いてなかったし、マンガ系は後半に入っていたのでそっちばかり見てたんですよ^^;;
いやでも、石黒さんの「京極堂」・小畑さんの「榎木津」、ともにナカナカ渋い。個人的にはわりとイメージに近いかも。

しかし、改めてトリビュートを書くというのは難しい作業だなと思う。
おおまかに傾向を考えると、その方向は概ね2つの流れになるのではないか。
ネタ元の外枠(世界観)を借りて自分のオリジナリティを出すタイプ、そして文体模写も含めてより元ネタに近づけるタイプ。
マンガに関してはちょっと横においておくが、小説系に関しては、原田・柳家が前者タイプの作品、あさの・西尾・牧野が後者タイプの作品になると思う。
ただ前者に関しては、原田は本業は映画監督、柳家は落語家という異種業の人であり、収録作品も原田が映画『魍魎の函』脚本執筆過程の裏幕、柳家が落語噺であることを考えると、圧倒的に後者が多いといえる。
それだけ京極夏彦という作家の個性が、特に「京極堂シリーズ」(?)に関しては強烈だということの裏返しといえるかもしれない。

後者の方から見ていくと、あさの作品は冒頭こそ京極作品の雰囲気が出ているものの、だんたんと違和感を感じてきてしまった。特に登場人物、ひときわ京極堂の言動がかなりライトだったし、作品の構造自体も緩かった。後半でその緩さそのものが狙いの一つなんだろうという事を窺わせる台詞があるのだけれども、あさのさんの持ち味と京極夏彦の世界の組み合わせにどうにも居心地の悪い部分が残ってしまった。
それとは逆に牧野作品はラストの落としどころは捻りが効いていて面白いのだけれども、作品全体で語られる禅問答的な会話がどうにも読みづらい。雰囲気としては『姑獲鳥の夏』の冒頭の京極堂と関口の会話の部分に近いかもしれないが、あちらが作品の核心の部分と非常に有機的に結びついていたのに対し、収録作は雰囲気作りで終わってしまった感がある。なにより、元ネタにはあった訳がわからないなりの面白みがこちらには薄かった。そういう意味で改めてデビューの段階での京極夏彦の達筆さを改めて気づかされた。

そんな中で出色なのは、西尾維新だ。
もちろん西尾さん自体が、私の贔屓作家というのもあるのかもしれないが、予想以上に西尾維新の文体と京極夏彦の文体の違和感の無さに驚いた。
作品の構成として、京極堂と同時代に生きた祖父の遺書的な告白を現代に住む孫が読むという形式なのだけれども、この告白部分が京極作品と言われても疑わないのではないかというぐらい、京極的な文体だった。比して現代の部分は明らかに西尾調なのであるが、作品を通して読むと一つの作家の作品としてきちんと完成されている。これは西尾氏の技巧の成せるものなのか、元々似ていたのか微妙なところだけれども、思わず唸ってしまう。
またトリビュートのセレクトが渋い。実はこの作品、小説では唯一京極堂や関口が登場しないのである。
ここで登場するのは、なんと堂島精軒!!しかも作品の世界は彼が登場したあの作品の世界観を拝借した後日談(あるいは前日談)的な話に仕上がっている。オリジナリティという意味では乏しい作品であるし、面白いかとどうかというと微妙かもしれないが、トリビュートとしてはかなりいい出来だと思う。

さてさて、小説系の残りは原田作品と柳家作品。
原田作品に関しては、ほとんど映画の裏ネタ暴露的な作品であり、トリビュートとして読むにはちょっと・・・。しかも3分の1は脚本採録なので、べるさんのように映画を見てるならもしかして楽しめるのかもしれないが、正直なところ斜め読みで十分だろうという感じ。
逆に非常に楽しめるのが柳家作品。
タイトルから推察できる通りに、古典落語作品である「粗忽長屋」「死神」をアレンジした創作落語である。
とにかく京極堂も名前しか登場しない作品、トリビュート的な要素もあまりないのだが、時折挿入されるシリーズのタイトルに掛けた駄洒落のくだらなさが実に楽しかった。いやあ、ぜひ一度高座に掛けて欲しい作品(もしかしたら掛けてるかも?)。

一方マンガ系。
冒頭でも触れたけれども、石黒・小畑両氏は口絵でのイラスト参戦。
またフジワラ氏も『魍魎の函』の場面を、独特のタッチでイラスト化。これに関してはもはや好みの問題でしょう^^;;
松苗氏も妖怪的な要素がほとんど関わらない、榎木津の日常のひとコマを切り取った作品。猫と勘違い(!?)されて、飼われてしまう榎さんに萌えてしまう人には一見の価値あり?
そして諸星大二郎だが・・・なんだこりゃ^^;;
もはや完全に諸星ワールド。冒頭で妖怪達が百鬼夜行の途中で宿泊した旅籠旅館(笑)で、百物語をするというお話。
この編のくだらなさ(なにしろ妖怪が百物語をやるということで、一つ終わるたびに蝋燭を一本つけるのだ!!←普通は逆)もある意味嫌いではないが、妖怪の一匹(?)が語る物語が、諸星大二郎といわずしてなんという的な作品。オリジナル作品に較べると大人し目の作品であるが、諸星ファンなら嬉しいところ。
そして、すべての百物語が終わり、全ての蝋燭に火が点いた時に、脱力系驚愕のサプライズが・・・
これ以上はぜひ実際に読んでみてください。

さてさて全体としてはやや作品の出来にむらがあるしトリビュートとしての完成度はイマイチなのだが、それなりには楽しめるのではないか。
記事を読んでもらえばわかると思いますが、私のオススメは西尾・柳家・諸星作品でございます。


採点  ☆3.7