『離れた家 ~山沢晴雄傑作集~』(☆4.3)  著者;山沢晴雄


まずはあらすじ。

「本格の鬼」山沢晴雄の傑作、初の単行本化!
凝りに凝った謎解き短篇から、メタミステリ、幻想奇譚まで、選び抜いた名品を一挙収録。

Part 1 砧順之介の事件簿
 砧最初の事件、銀知恵の輪、死の黙劇、金知恵の輪

Part 2 扉の向こう側
 扉、神技、厄日、罠、宗歩忌、時計

Part 3 離れた家
 離れた家

amazonより

なんだか国家試験が終わっても読書ペースがなかなか戻らない。
ということで、一言コメントで書いていた本はコレでした。
まあ、何を読んでるんだろうと予想してる人もいなかったでしょうが(笑)。

日本評論社日下三蔵、そしてこの装丁とくればもうあの天城一傑作集を思い出してしまいますが、これも作品や名前は知られているものの、アマチュアゆえに未単行本作品ばかりの著者の作品を収録したものです。
ちなみに収録されている『離れた家』は、もねさんの巡回ライブラリ対象となっている『硝子の家』にも収録されていたかと思います。

まあ、天城さんはトリックを重視するがゆえに、小説の小説たる要素までそぎ落とした純度の高さで多くの読者を置き去りにしてくれましたが、それに較べると山沢さんは遥かに読みやすい。
トリックの純度を追求しているという意味では天城さんと同系統なんですが、きちんと小説としての読みやすさも残してくれてる感じなんでしょうか。
特にpart1の「砧順之介の事件簿」に関しては、どれもこれも王道的なトリックを使っているにも関わらず、新鮮な気持ちで楽しめた。近年のトリックは複雑(あるいは科学的)に肉付けされている傾向があると思うのだが(←非難してるわけではないよ~)、この小説の場合、その骨格の部分を違った方向から見たという感じというべきなんだろうか。
ある意味、本格の凄みを改めて感じされられ、著者のこだわりに敬服。

ただ、これがpart2になると、削ぎ落としすぎてる感が否めない。
すべてノンシリーズもの(らしい)のだけれども、微妙に、あるいは意図として作品ごとにリンクしている部分があった。
ただ一つ一つの作品がやや抽象的過ぎて、リンクしていることによって・・・というところの面白さが今ひとつ伝わってこない。
特に「神技」と、その表裏一体的な作品である「厄日」にそれを著しく感じた。
まあ、個々の作品でいえば、「罠」のシュールの後味や、「宗歩忌」の世界は嫌いじゃなかったんですけどね。

で、いよいよ『離れた家』です。
収録作では最長(といっても100ページ程度ですが)であり、非常に評判の高い本作。
確かに本格としての純度は長くなっても変わらず、あまりにベタなトリックを使っているにも関わらず、複数組み合わせることによって複雑かつ本格としての完成度を高めた技量は凄いと思う。
コレに関しても、小説としての面白さという部分は微妙なのだけれども、その本格スピリットの高さは十分に堪能できる。

とにかく、天城氏と同様、小説として読むには若干の難があるし、集中して読まないと置いてけぼりにされてしまう作品もある。
ただ本格好きの人であれば、一度手に取ってもいいのではないかと、僕は思います。


採点  4.3