『サクリファイス』(☆3.9)


まずはあらすじ。

勝つことを義務づけられた〈エース〉と、それをサポートする〈アシスト〉が、冷酷に分担された世界、自転車ロードレース。
初めて抜擢された海外遠征で、僕は思いも寄らない悲劇に遭遇する。それは、単なる事故のはずだった――。
二転三転する〈真相〉、リフレインの度に重きを増すテーマ、押し寄せる感動! 青春ミステリの逸品。

amazonより

年末のランキングを検討中といいながら、また対象作品が一つ増えてしました^^;;
もしかしたら、さらに吉田修一の『悪人』も間に合ってしまうかも。。。

まあ、そんなことはおいといて。
年末のランキングでは好評を得ている近藤さんのこの作品。
今回はロードレースを舞台にしたミステリです。
ロードレースのミステリというと2004年に「このミス」かなにかでランクインした、斎藤純の『銀輪の覇者』もありましたが、あっちが昭和9年を舞台にしたロードレースというよりも自転車競走という感が強く、レースの面白さというよりもその背景で楽しませる作品だったのに関して、こちらは正統派のロードレースの物語。

個人的には友人の影響で海外のロードレースなどを観たり、いろいろと予備知識を持っていたせいか、物語の中にはすんなり入り込めました。
そしてなにしろこういったストーリーには弱いところもあってねえ、わりとツボではありましたです。
正直お約束的な展開もあるので、もう少し書き込んだほうがいいのではないかというのも感じなくはなく、スポーツ的な熱さという点では『一瞬の風になれ』に較べると落ちてしまうなあとも思います。
まあ、あっちはミステリではないですからね、較べるのはおかしいんでしょうな^^;;
ただそういった書き込みの若干甘い部分が、後半の二転三転する展開の部分においてマイナスに働くかも、というのは否めない。
どうしてもラストの部分でロジック的な要素が強くなるだけに、前半の物語と分離気味になってしまって、ラストのわりと救いのある展開に読者が共感を得ることを拒んでしまうのではないでしょうか。特にチカの元カノのその後を考えるとね~、引っかかりますな。
ただチカとそのライバルともいえる伊庭の微妙な距離感の描き方は上手いな~と思いましたね~。

ただ全体としてはロードレースを舞台にする必然性があった本だとは思いました。
特にロードレース独特の「エース」と「アシスト」の関係は、心理劇的要素もあるしラストのドンデン返しの連発にこの世界でしか通じないロジックを成立させてますね。
ミステリのロジックというのは、ともすればご都合主義になり、現実と乖離してしまう部分がでてしまうと思います。
それを逆手に取ったのが前回記事にした『インシテミル』だと思うのだけれども、こちらの作品は現実における不思議な世界に架空の物語を持ち込むことに成功している。

著者がロードレース好きというのもあるのだろうけれども、いろいろな部分での素材と作品のマッチングの良さは賞賛すべきものだと思う。
それだけに、もっと描けたのではという物足りなさが残るのはどうにももったいないと感じてしまうのだが。。。




採点  3.9