『まんまこと』(☆4.4)  著者:畠中恵


まずはあらすじ。

しゃばけ」シリーズがブレイク中の気鋭・畠中恵さんの新シリーズは『まんまこと』というタイトルです。
意味は「真実。ほんとうのこと」。江戸は神田の古名主の玄関先に持ち込まれる騒動(いまでいう民事の範疇)を、やや頼りない跡とり息子・麻之助とふたりの悪友、男前でモテモテの清十郎、堅物の吉五郎が活躍し、絵解きします。
この彼らがとても魅力的なのです。ついついお話の向こう側まで想像してしまうような強力なキャラクターたちです。
女性陣も負けてはおりません。芯が強く、可憐な眦を決し、こうと決めたら動かない意気地のある女たちが生き生きと描かれています。
お腹の子の父は誰なのか? 万年青争いの真相は? 
切ない恋物語も織り交ぜられ、読者をつつみこむような畠中ワールドが存分に楽しめる一冊です。
ふうわりと温かな読後感をぜひ味わってみてください。 

amazonより

北村さんの落選のショックで始まった第137回直木賞候補作の旅。


いよいよラストを飾るのは、畠中恵『まんまこと』。
しゃばけ」シリーズが大好評の著者なのだが・・・
すいません、読んだことないです、というか畠中さん自体これが初めて・・・^^;;
いや、「しゃばけ」シリーズも気になってたんですよ!!なってたんですが、これまで縁が薄かったということで。。。

と、いきなり謝罪(誰に?)から始まりましたが、今回の直木賞候補作品はすべて☆4つ以上とハイレベル。
トリをかざるこの作品は・・・

・・・いいでないですか、いいでないですか、これは好きだな~♪♪(^^v
いかにもどこか気楽な跡取り息子、そして江戸っ子らしく人情に厚く、いやいやといいながら首をつっこんでしまう麻之助。
一見ぼんくらだけれども、「まんまこと」を探させたら天下一品という頭の切れ味の持ち主。
この飾らなさと切れるのだけれど厭味のない麻之助が憎めない^^
悪友であるモテモテの清十郎、堅物の同心見習い・吉五郎のトリオがなんだか黄門様と助さん格さんに見えるのは私だけ?

彼らが関わる事件も難しからず優しからずというものがおおく、そのさじ加減がどこかホンワカしてる作品の空気にマッチしてますよね~。
ということで久しぶりの短編総レビューでもやってみましょうか。
なお各編のあらすじはまんまことうぇぶから引用させて頂いております。

<まんまこと>
色男の清十郎が、幼なじみの麻之助によりにもよって“念者のふり”を頼んできた。
どうやら太物問屋の娘からお腹の子の父と名指しされ、まるで身に覚えのない清十郎が困り果てての頼みの様子。
まことの父は誰なのか。

念者=同性愛といったらいいのでしょうか。なんだけ現代のマンガでもたま~に見かけるこの設定。
でも父親の疑いをかけられてしまったのは麻之助。
そんな彼が解き明かした真相はほろ苦く切ない。しかしながらその裏にある家族の愛が物語を優しく包んでくれます。

<柿の実を半分>
質屋の三池屋小左衛門の庭から、柿を盗んだ麻之助。気軽にいただいたつもりが、執拗に追い掛け回され、閉口。
先年、愛する妻子を亡くした寂しさから、小左衛門は話し相手が欲しいようだった。
でっちあげの昔の恋人の忘れ形見が当人の前に現われるが――。

これまた現代の小説(マンガ)でもありそうな設定。起承転結、まったく意外性の無い(誉めている)物語。
遺産を巡る厭らしい展開ながらも、その初々しく可愛らしい小左衛門の姿が拝めるラストが心地よい。
こういう物語の閉じ方はこの時代だからこそって感じもしますな~。

<万年、青いやつ>
呑気ものの麻之助に縁談。そこに万年青の鉢をめぐる争いがもちこまれる。
万年青好きの“連”のお披露目会のあと、のこされたひと鉢は一体誰のものなのか。
大家、松野屋七郎兵衛、店子袋物師安助、両者一歩も退かぬ構え。

持ち主不明の品を巡る駆け引き。これまた素材は現代に通じるのではないでしょうか。
ただこの事件の真相を握る人物の考え方がどこか悲しい。ついつい考えてしまう部分がある。
シンミリとした万年青を巡る物語と、不思議な軽さと人情が滲む麻之助の縁談話の対比がいいです♪

<吾が子か、他の子か、誰の子か>
麻之助の家で清十郎があばれはじめた。なんと、弟・幸太のまことの父の父を名乗る人物が現われたのだという。
亡き息子の松三郎が江戸づとめの折、残した子が幸太だと言ってのりこんできた。
松三郎の放蕩のあとを追い、深川に芝に麻之助・清十郎・吉五郎の三人組は足を運ぶ。

幸太を巡る物語ながら、一方で孝太の母お由有と麻之助の過去の因縁が物語に深みを与えてくれます。
オチのほろ苦さも現代に通じるな~。
でも一番気になるのは初雪の元に残された吉五郎のその後だったりして(笑)

<こけ未練>
麻之助が又四郎の見舞いのため、高級菓子司越後鈴木に寄ったところ、最初に狆、つづいて娘を拾ってしまう。
これが厄介の種だった……。
赤い手絡をした娘を探す岡っ引きに追われ、麻之助と清十郎は江戸の往来をひた走るが。

岡っ引きが探すこりん様の正体は分かりやすい。一方で拾った娘・おしんの生き方は現代の若者風?
一方でお由有と麻之助の過去の因縁がいよいよ明らかになってくる過程が気になる。
収録作の中では一番地味な感じなのですが、最終話へのブリッジとしてはいいのでは?

<静心なく>
「八木家の末の子は預かっている」「金を用意しておけ。五十両」――
幸太が攫われた。支配町の住人の暮らしを左右する町名主にはいつでも逆恨みの危険があるのだ。
なにかの因縁か、それとも金欲しさか――

これは事件のあらまし、そしてそれを解きほぐすロジックもさることながら、事件を通して許婚・お寿ずとお由有の間で揺れる麻之助。
それまでの短編の中で描かれていた麻之助の忘れえぬ恋に一つの転機が訪れる。
最後に麻之助とお由有が触れ合おうという瞬間の息遣い、そして彼らの選んだ生き方に対する余韻が物語を締めくくるに美しい。


こうしてみると作品としてみるなら、現代にも通じる世界観の構造がほとんどながら、それを描き出すにあたって江戸という街に相応しい物語に仕上げた作者の手腕は素晴らしい。
そして本作はどうやらシリーズ化の予告がされているらしい。

たしかに麻之助の恋模様の行方は気になるし、シリーズとして読みたい気がする。
ただ最終話のあの余韻を考えるとシリーズ化するのではなく、この作品で終わらせるのがベストなのではないかと思うのだがどうだろう。


採点  4.4