『俳風三麗花』(☆4.3)   著者:三田完


まずはあらすじ。

時は昭和のはじめ。教授の娘ちゑ、医学生の壽子、浅草芸者の松太郎。暮愁先生の句会で出会った3人の友情と恋模様を洒脱に描く 
 
昭和7年夏、秋野暮愁が主催する暮愁庵句会に、3名の若い女たちが加わった。
大学教授の父を亡くしたばかりの阿藤ちゑ、東京女医専門学校の学生の池内壽子(ひさこ)、そして浅草芸者の松太郎。
句会を通して友情を育む3人の、それぞれの恋模様を軽妙洒脱に描く連作形式の長篇小説です。
句作の過程を細やかに追った句会の場面は特に読み応えがあります。
昭和初期の年頃の女たちが繰り広げる情感豊かな恋愛小説をお楽しみください。

yahooより

北村さんの落選のショックで始まった第137回直木賞候補作の旅。


残る2冊のうちの一冊、三田完の 「俳風三麗花」です。
なにしろこの作者、この本ではじめて知りました。
正確にいえば長編小説「暗闇坂」の存在は知ってたのですが、著者までは覚えてませんでした^^;;

舞台は昭和初期の東京。時代背景としては北村さんの『玻璃の天』と同時代。
そういえばどこかたおやかな中に、激動の時代の息吹を感じるところなぞは似ているような気もしますね。
そして、読後感の満足度も北村さんと一緒。

いや、これは面白い。
文芸春秋の粗筋紹介を読むと、ちょっと洒落た感じの軽快な小説という印象ですが、むしろその逆。
たおやかな時間の流れを感じさせる淡々とした展開に、多くの素敵な俳句が彩りを添えてくれます。

物語の主軸は、粗筋でも語られているようにヒロイン達の三者三様の恋物語
普段見せている言動と、恋をしたときのギャップが捻りが聞いていて面白い。
普段はチャキチャキとして芸者を見せてくれた松太郎が自分の恋となると意外に控えめだったり、物静かなちゑが芯の強さを見せたり。。。
でもやっぱり一番インパクトがあったは普段理知的な医学生の壽子さんが、まだ見も知らぬ恋文の相手を想像して妄想全開させる様でしょう。
これじゃあほとんどホラーじゃん、と思わずつっこんでしまった結末も含めて印象に残りましたね~。

そして、この小説の主役はやっぱり俳句。
個性溢れる三人の主役の違いが明確にあらわれたそれぞれの俳句が、淡い色彩の小説にリズムと個性を表現してくれてます。
いや、ほんとどの俳句も練りに練られてる。作中の登場人物が読む俳句はすべて作者のオリジナルですよね~。
これはほんと立派。
それぞれの句会では、その句会で詠まれた句を互選方式で採点するんですけど、小説を読みながら自分で採点してみるとより面白い。
自分が選んだ句が、作中でも評価が高かったりするとほんとニンマリしてしまいます。
そしてその俳句たちが上手く恋に絡んでくるさまがまた切ない。
特にちゑと暮愁先生の間に交わされる恋歌とその結末といったら、ああ切ない。。。

なんだか私も『歳時記』片手に句を詠んでみたくなりましたね~^^
それぐらい俳句の魅力が堪能できて、それでいて小説としての完成度も高い。
まさに直木賞候補にならなければ出会わなかった、とっても拾い物の本。
いやあ、この本が直木賞を獲っててもおかしくない。
こんなにレベルの高い直木賞は久しぶりではないでしょうか。


採点  4.3