『鹿男あをによし』(☆4.0) 著者:万城目学


「さあ、神無月だ――出番だよ、先生」;神経衰弱と断じられ、大学の研究室を追われた28歳の「おれ」。
失意の彼は、教授の勧めに従って2学期限定で奈良の女子高に赴任する。ほんの気休め、のはずだった。
英気を養って研究室に戻る、はずだった。あいつが、渋みをきかせた中年男の声で話しかけてくるまでは……。
慣れない土地柄、生意気な女子高生、得体の知れない同僚、さらに鹿…
そう、鹿がとんでもないことをしてくれたおかげで、「おれ」の奈良ライフは気も狂わんばかりに波瀾に満ちた日々になってしまった!!
「壮大な構想、緻密な構成、躍動するディテール、ちりばめられたユーモア…。
これが二作目なんて信じられない。この作家は、いずれ直木賞を獲るだろう」と"本読みの達人"金原瑞人氏が絶賛した、渾身の書き下ろし長編。

講談社HPより

万城目学である。
といっても単行本化された著作はデビュー作の『鴨川ホルモー』とこの作品だけだと思うのだけれども。

今回読むきっかけは『玻璃の天』が直木賞を逃したショック解消ということで(どんな理由だ)、受賞作を含む候補作品を読んでみようと思い立ったのがきっかけ。
全部で6候補作、この作品が4作目です。

いや、普通に面白かったし楽しめたな~。
読み始めた時はなんとな~く、漱石の坊ちゃんぽいな~という感じ。
単純にマドンナという呼称に引っ掛かっただけ?

物語も骨子も非常にシンプル。
良くも悪くもマンガ的な要素が強い分かりやすさ。でもそんな分かりやすさがサラッとした筆致にピッタリ嵌まってる感じ。
とにかく読みやすい。読者を選ばないという意味では今まで読んだ候補作の中では一番だと思う。

かといってどこにでもある小説(マンガ)とはちと違う個性もきちんと出てるような。
これ1冊しか読んでないからなんともいえないが、細かいディテールの作り方が非常に上手いと思う。
適度に重くて、適度に軽い。「渋みをきかせた中年男の声」で喋る(しかもポッキー好き)鹿という破天荒な設定なのに、最後はベタな展開に思わず頬を赤らめてしまう(笑)。

登場人物達も小説的に個性的な人達だとは思えないのだが、どこか心に残ってしまう。
振り返ってみると、本当に悪人のいない小説。どいつもこいつも適度に青臭いのだ。
その象徴が大阪女学院の剣道顧問の男性。最初は毒舌を吐きまくったのに、大会が終わってみると素直に謝ってくる。
このあたりはまさに往年の正統派スポコン漫画状態だ。

物語のクライマックスで明らかになる(この時点でほとんどの読者にはバレバレだろうと思うが)鼠の使いも、いざ動機がわかると憎めない。
どこをどう切っても爽やかだ。
これだけ変わったストーリーなのに、この爽やかさ具合は素敵だと思うぞ~。
文学を堅苦しく考えると重みという点ではあきらかに欠けるけれども、エンタメとしては非常に間口が広い作品。

個人的には、すわ実際に奈良では当たり前なのか!!と思わせるマイ鹿の存在(←本気か?)と、ラストのベタさがお気に入り。
そして冴さんは察しているかもしれないが、個人的にわりとツボなヒロインもいいぞ♪

ちょっと引っ掛かったのが、デジタルとフィルムに移る画像の違いがピンとこなかったぐらい?
でも多分これは自分の理解力不足。

ううむ、今回の直木賞候補。
今のところはずれ無しだぞ!!残り2作にも期待だ!!


採点  4.0