『パノラマ島綺譚』(☆4.0)


富豪の菰田源三郎と瓜二つの小説家・人見広介は、源三郎になりすまして、菰田家の莫大な財産をもって、おのが空想した夢のパノラマ島をつくりあげた。
M県沖の島に展開される妖美な幻覚ともいえる怪しの「パノラマ島奇談」。

yahoo紹介より

乱歩初期の中篇代表作の一つ。
これを読み返すのは実に久しぶりだ。しかしイメージは鮮烈に残ってる。
もちろんあのカルト映画の名(迷?)場面も含めて。。。

さてさて、改めて読んでみると若干の古臭さはどうしても感じる。
特に人見が菰田と入れ替わる場面などは、読んでてもどかしさを感じる。
やはり大横溝に比べると文章の普遍性という意味では弱いよな~。

ま、もちろん乱歩の魅力はそんなところにあるのではないし、評価を下げることも無い。
入れ替わり実行に際して最も要注意と感じていた妻を愛してしまう人見。
妻と夢との葛藤に苦しむ主人公の粘着質っぷりは乱歩乱歩乱歩だ。
そしてその妻をつれて、悪夢のような桃源郷を行く場面で物語は最初のクライマックス。
とにかく偏執の極みというべき情景描写が続くのだが、よもすれば単調になりかねないところが、乱歩の筆に掛かると異形の美として浮き上がってくる。

そして第2のクライマックスにして乱歩美の極みというべきラストシーン。
記憶では強烈かつ濃厚な美しさを持っていたのだが、意外にシンプルな描写だった。
しかしながらそのシンプルさはただのシンプルさではない。
乱歩でなければなしえない腐敗美。
江戸川乱歩がなぜ巨星であるか、その一端を垣間見せてくれる犯罪小説であり幻想小説である。



採点  4.0