『首無の如き祟るもの』(☆5.0)



奥多摩に代々続く秘守家の「婚舎の集い」。二十三歳になった当主の長男・長寿郎が、三人の花嫁候補のなかからひとりを選ぶ儀式である。
その儀式の最中、候補のひとりが首無し死体で発見された。犯人は現場から消えた長寿郎なのか?しかし逃げた形跡はどこにも見つからない。
一族の跡目争いもからんで混乱が続くなか、そこへ第二、第三の犠牲者が、いずれも首無し死体で見つかる。
古く伝わる淡首様の祟りなのか、それとも十年前に井戸に打ち棄てられて死んでいた長寿郎の双子の妹の怨念なのか―。

yahoo紹介より

『厭魅の如き憑くもの』『凶鳥(まがとり)の如き忌むもの』に続く刀城言耶シリーズの第3弾。

これは面白い。とにかく面白い。
今年のミステリ系のベストは、早くも『赤朽葉家の伝説』で決まりかと薄々思っていたところ、より正統派に近いホームラン級の作品が登場してしまった。
前2作は物語の吸引力は高いものの、ホラー的要素・Bミス級要素の方がインパクトとして残っていたのだが、この作品に関して言えばホラー的要素を漂わせつつも、間違いなく本格と断言できる作品だと思う。

冒頭、村に伝わる恐ろしげな遊び唄(?)から始まり、時代を跨ぎ繰り広げられる連続殺人劇。
村を牛耳る三つの家族を巡る因縁と、それに纏わる淡首様の祟り。
ストーリーテラーとしての実力は過去2作からも分かっていたのだが、それらの作品以上に物語に吸い込まれる。
ホラー的要素からいえば、『厭魅の~』の方が怖いかもしれないが、あちらにあった同じ読みの人物がたくさん出てくるといった不必要に紛らわしい要素がない分、よりシンプルに物語が伝わってくるかもしれない。
というより、むしろこちらの作品で怖いのは淡首様よりもそれを信仰しすぎた、あるいは祟りを信じすぎている秘守家の人々の行動や考えの方が怖い。
とにかく最後の最後まで読ませる勢いが落ちない。

それらの要素がすべて本格の要素を描き出すパーツにとなる構造の美しさは、あるいは先日読んだ『獄門島』に比するか。
『獄門島』が過剰なものを削りに削ったシンプルな無駄の無さを持っているなら、こちらは過剰なぐらいの小道具がすべて伏線あるいはミスリーディングとなっている、いわば対極の作品なのかもしれない。

しかしながらやはり圧巻なのはラスト2章だろう。
すべてのデータが提示され、それに基づき探偵役がたった一つの疑問点を元に、事件の真相を導き出す。
この真相というのがとにかくシンプルかつ難解なのだ。言われてみれば確かにすべてが論理的に帰結するのだが、例え犯人を予測できたとしてもこの事件の複雑な構造をすべて解きほぐせる読者はまずいないのではないだろうか。
しかしながら、そこまで完璧に組み立てた論理がその直後にその探偵の手でひっくり返されてしまうのだ。
冴さんも記事で語っていたが、この場面における騙される快感は圧巻の一言である。
ミステリの論理としてほぼ完璧な展開にも関わらず、その向こう側へ行こうとする作者の心意気はどうだ。
繰り返される騙り的な騙しの果てにある、怪奇的要素と論理性が融合する不気味な後味を残すカスタトロフィー、その瞬間刀城言耶の存在すらミスリーディングだということに気づかされてしまう。

正直なところをいえば、ややアンフェア気味な部分が無いでもないところ、表層的な動機という部分でのあっけなさ(犯人の心理的要素は異常なぐらい異常なのだから、この感想は本来あてはまらないかもしれない)に不満が無くも無いが、所詮は些細な事。
それ補ってあまりある密度がこの作品にあった。

近年の新刊の中で、これほどまでにラストでワクワクさせてもらった作品は実に久しぶりだ。
『赤朽葉家の伝説』に☆4.9をつけている以上、それ以上の論理性、純粋な本格ミステリの面白さを含んだこの作品には満点を挙げたい。
それが例え、『獄門島』と並ぼうとも決して遜色ない作品だと思うからだ。


採点  5.0