『不死蝶』(☆3.0)



長野県下の湖畔の町、射水で両大関といわれる名家の玉造家と矢部家とは先祖代々に亘る仇敵の間柄であった。
その射水に向かう列車の中にはかの名探偵・金田一耕助が、お釜帽から蓬髪をはみださせたいつに変わらぬ衣装で、大いなる好奇心をかき立てられていた。
なぜなら、"来てはならぬ"…という一種の脅迫状を受けていたからであった。矢部家の次男英二が玉造家の娘朋子の手で鐘乳洞の中で殺されるという事件が起きたのは二十三年前のことであったが、その朋子の無実を明かすべくブラジルからコーヒー王の養女となって"新シンデレラ姫"といわれる日系二世の鮎川マリなる女性がやって来ていた。鐘乳洞の中でふたたび次々と殺人が。頬に傷を持つ男とは。金田一の推理は…。

「僕たちの好きな金田一耕助」より

忙しい時は読み慣れた作家に限る。
という事でプチ横溝祭、そして初長編記事。
それが、「悪魔の手毬歌」でも「獄門島」でもなくこれというのがね^^;;
とりあえず今回は『春陽堂書店』版で読みました。

いやあ、なんとも微妙な出来栄え^^;;
犬神家の一族』の舞台となった信州(作中でも触れられています)、さらには横溝お得意の旧家同士の対立、さらには『八つ墓村』を彷彿とさせる大鍾乳洞を舞台に繰り広げられる連続殺人。。。
小道具と雰囲気はバッチリなのですがねえ、なんでしょう、うまくかみ合ってないんですな~。
その原因のひとつが23年前に行方不明になった朋子が残した手紙。

「あたしはいきます。
でも、いつかかえってきます。
蝶が死んでも、翌年もまた美しくよみがえってくるように。」

文章はもうそそりまくりです。
一体この謎めいた手紙の真意は・・・ふう。。。。
これ以上書くとネタバレになるので書けませんが、せっかく魅力的なのにねえ~。。。
これが決まれば星プラス1なのになあ。

そして本作のヒロインとして登場するマリが横溝作品としては結構異色だと思います。
とにかく存在が謎めいています。はっきりいって何をしたいのかが前半は分かりかねます。
もちろん大枠としては、母の疑惑を晴らすという目的がありますが、それにしても妙にクール。
そのあたりの記述の曖昧さが実はマリと母親との関係に隠された謎に結びつきます。
個人的には予想してたものと違ったので意外性もありましたし、横溝の苦心の筆致が伺えます。
あまりに苦心しすぎて逆に記述が浮き上がってる部分もなくはないんですけどね^^;;

さてさて本作の見所は普段にない金田一の姿が見れる場面。
物語の鍵となる人物にむかい、「とつぜん凶暴ともいうべき目」をその相手に向けます。
普段は穏やかな金田一のキャラからすればかなり異色な場面。
金田一のこの感情が果たして誰に向けられたのか、そしてなぜ感情を露わにしたのか。
これを想像しながら読んでみると面白いのでは。
個人的には、「そりゃいくら金田一さんでもそうなるよな」と共感しました。

そしてこの作品の某場面で、私泣きました。
涙腺緩すぎですな、はい。
年をとると涙もろくなるんですよん^^




採点  3.0