『六とん3』(☆4.0) 著者:蘇部健一



そ、そんな……(絶句)
「六とん」は今、トホミスの頂点を極めた!(注・トホミス=トホホなミステリのこと)――作家・松原秀行
このユーモアと不条理、右に出る者ナシ!

バカミスから心暖まるファンタジーまで、「六とん」シリーズの新作。下品で収録が危ぶまれた「×××殺人事件」や、タイムマシンで過去へ行き片想いの女性に告白する「秘めた想い」、運命の出会いを描く「赤い糸」などドキドキのお話がいっぱい。

裏表紙及び帯文より

私も「六とん3」です。
5月11日の発売以降、数々のブロガーの皆様が記事をUPされ素晴らしい盛り上がり(?)を見せております。

思えば「六枚のとんかつ」の頃は、笠井潔に「ゴミ」と呼ばれ、信者は隠れて崇めるしかなかったのでございます。
殆どの読者は、読みもせず(あるいは読んで?))「六枚~」を焚書・禁書扱いしたものでした。(←私もその一人^^;;)
続いて発表された「六とん2」、りあむさんの調査によると笑っちゃうぐらいに売れなかったそうでございます。
(詳しくはりあむさんの記事をご覧ください。)
思うにこれは21世紀の魔女狩りと呼ばれた「六とん狩り」が吹き荒れる中、勇気ある信者が手に入れた聖典を密かに回し読みせざるを得なかったからでしょう(大嘘)。

そんな日々を思い返すと、今の現状は隔世の感。
ああ、なんて素敵な時代がやってきたんでしょう。

ということで、発売日には私もいそいそと専門学校近くのフ○バ図書へ。
森さんの新刊が並んでます。本格ミステリ07が並んでいます。太田蘭三さんが並んでいます。
そして別コーナーには『文学賞メッタ斬り! 2007年版』が並んでいます。
でも、『六とん3』はありません。
いったいこれはどうした事なんでしょう。
売り切れたのでしょうか。それとも禁書扱いになったのでしょうか。
でも、恐ろしくて書店員さんには質問出来ません。
仕方ないので、紀伊○屋に向かいます。
またしてもありません。他の本はあるのに。。。
最後の望みはジュ○ク堂です。
恐々ノベルズのコーナーを覗くと、他の本は平積みされているのに『六とん3』は見つかりません。
発売日に買うという行為はやはり神を冒涜するものなのでしょうか。
それとも模擬試験を2日後に控えて『六とん3』を買おうとした天罰なのでしょうか。。。

そんな事はありません。
よく目を凝らしてみますと、平積みされた本の間に不自然な隙間があるではありませんか。
そっと見ると森博嗣本格ミステリ07の間に可愛らしい女の子の表紙が覗いてます。
たった1冊、たった1冊まだ残っていたのでございます。
小銭を握り締めている女の子に思わず今の自分を重ねてしまいました。
表紙を裏返しますと、幸せそうに本を読む少女の姿が。
思わず涙を堪える自分の姿は、たいそう怪しかった事でございましょう。

結局一緒に買った森博嗣よりも『文学賞メッタ斬り! 2007年版』よりも早く手にとってしまいました。
そう、社会福祉士のテキストよりも先に。
最初は1話だけのつもりだったのです。
ああ、それがなんという事でしょう。まさか校内模試当日、学校に向かう電車の中でも読んでしまうとは。
それでも模試の結果は平均点以上でした。
あまりといえばあまりの罪深き子豚を神様が憐れんでくれたのでしょうか。
いえいえ、違います。
これは『六とん3』がもたらしてくれたご利益なのです。。。。


すいません、ここまで書くのに微妙に体力を使ってしまいました^^;;
本編の方は、さすがトホミスな内容に思わずニヤリでした。
個人的に好きだったのは『アリバイの死角』と下品すぎて収録が危ぶまれた『×××殺人事件』。
見え見えのトリックをトホホなオブラートで包む技が素敵です。
別の意味で驚愕な真相にトホホです。
『×××殺人事件』では、奇跡とも呼ぶべき下品なダイイング・メッセージの解読法が素敵すぎます。
紆余曲解にもほどがある真相にトホホです。

『栄光のステップ』は『世にも奇妙な物語』にしたら面白そうやな~と思ってたら著者の狙いもそこ。
もしかしたら『六とん』シリーズから初の映像化か。。。
関係ないですが、この短編の解説で蘇部さんが選んだ『世にも~』ベスト40に、僕の大好きな『友子の長い夜』と『過去からの日記』が入ってたのに狂気乱舞。
特に後者はテレビで見てて号泣しまくり。
主演の西島秀俊蒼井優の演技も最高だったし、ホント乙一系の泣かせる作品だったのです。
ちなみにストーリーはこちらで見れたりします。

さてさて別の意味で収穫だったかなと思うのは、まったく期待してなかった最後の2編。
『六とん2』ではイマイチだった系だったのが、今回はなかなか纏まっていたのでは。
かなり対極な結末の作品ながらどちらも面白かった。
まあ、別に蘇部さんがこれを書かなくてもいいけどね、と思いましたが(笑)。

全体でみると、シリーズ中ではもっともまとまった短編集に仕上がってましたね。
普通に面白い作品集だったのでは。
でも、僕らがこのシリーズに期待してるのは、、、ねえ。。。


余談

これを読む直前に途中まで読んでた笠井潔の評論(未記事)に例の『ゴミ』発言が載ってました。
それはおいといて、同じ項で清涼院流水の『コズミック』に関して、部分的に賞賛しているのにビックリ。
懐深いんだか、浅いんだか分かりませんな~、笠井さんは^^;;;


採点  4.0