『川に死体のある風景』(☆3.8)



六つの川面に浮かぶ死体、描かれる風景。
実力派作家6名が「川と死体」を題材に競い合う!美しく、トリッキーなミステリ・アンソロジーamazon紹介

奥付を見ると刊行されたのがちょうど一年前。
その存在もリアルタイムで知っていたのですが、なぜかここまで読みませんでした^^;;;
ということで収録作を書いたのは以下の6名。

「玉川上死」歌野晶午
「水底の連鎖」黒田研二
「捜索者」大倉崇裕
「この世でいちばん珍しい水死人」佳多山大地
「悪霊憑き」綾辻行人
「桜川のオフィーリア」有栖川有栖

これが初創作の佳多山さん以外の面子は読書経験ありですし、割と不出来率が高い人がいないので安心して読めます。
それにしても最初の2人以外はすべて創作の川。せっかくのアンソロジーなのだから、全部実在の川という括りの方が良かった気もするのだが。
とりあえずそれぞれの感想を。

「玉川上死」 歌野晶午

非常に読みやすいし、面白い。
ただ短編の割りには小ネタを盛りすぎてしまい、中途半端なところも感じたかも。
とにかく、恐らくは誰もが解けてしまう話だけにもう少しシンプルに纏めて、見せ方に工夫をしてもよかったかも。
終わり方はの匂いは『世界の終わり、あるいは始まり』的な部分もあり、殺伐感があって嫌いじゃないっす。


「水底の連鎖」黒田研二

収録作の中では一番締まってる作品じゃないかな~。
トリックも面白い。実現性はかなり微妙(特に○○○に車を・・・の辺りは)なものの、ムチャをする前提に犯人の心理的要素があるので、それはそれで納得できると思う。
ただ主人公(?)があそこまで川にこだわってるんだから、もう少しそこが物語に利いてくればという感じもする。


「捜索者」大倉崇裕

これも面白かった。「川」ではなく「雪山」だろうという著者の一人ツッコミ(?)には同感ですが(笑)。
雪山といえばクロケンさんという気もするが、大倉さんの描写も堂にいってます。
特に短い中でもきちんとアリバイを解明する手段、動機の描き方をそつなくこなしているし、短編慣れしてるな~という感じ。
ただ、雪山でのトリックに関してはほんとにばれんのか、これ?というのが最後まで残りましたが。。。


「この世でいちばん珍しい水死人」佳多山大地

これが一番きつかった。
舞台設定やアイデア、纏め方も面白いのと思うのだが、それを作品に昇華する為の筆力が足りなさすぎる。
まあ著者もこんな形で創作デビューするとは思ってなかっただろうし、アンソロジーという企画の中でそれを非難するのもね。
もっとじっくりと煮詰めた作品を読んでみたい気にはさせてくれました。


「悪霊憑き」綾辻行人

実にらしい展開で前半を引っ張るものの、後半の現実的落差のギャップが激しすぎた。
とことん幻想路線でいくか、ギャップそのものの落差に対する虚無的な味わいがあれば。
ラスト1ページも味わいを残せなかったな~。
とりあえず後書きに書かれた構想をぜひ作品化してください(笑)。


「桜川のオフィーリア」 有栖川有栖

とにかく、江神さん達英都大学のメンバーに会えただけでも♪
まあ時代設定が『月光ゲーム』のあとだけに、マリアがいないのが残念~。
作品としての味わいというか死体の幻想的な姿と事件の真相がいい具合でマッチしてます。
後書きにこれを弾みに長編を、と掛かれてますがあれから1年経ちましたよ~(笑)。
『双頭の悪魔』以来、学生アリスはこれも含めて短編2編(だけですよね)だなんて酷すぎます。。。


以上です。
どれもそれなりにクオリティが高く安心して読めます。
新たなる才能を発掘するというアンソロジーもいいですが、やっぱり金を出すならこういうのですな。



採点  3.8