『吾輩はシャーロック・ホームズである』(☆3.9)



一九〇二年「夏目狂セリ」という発信人不明の電報が打たれた――。
自分はシャーロック・ホームズだと思いこんだ夏目漱石に下宿先の女主人がワトソン博士に相談に行くことから、漱石は、事件にぶつかりワトソン博士と謎に取り組んでいくが…。 

出版社紹介

夏目漱石シャーロック・ホームズの競演・・・。
ミステリファンならば、島田荘司の『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』を思い出すだろうし、もしかしたら他にも似たような作品があるかもしれない。
しかしながら、イギリスに留学中に神経衰弱を患ったという実話を逆手にとって、漱石自身がホームズと思い込むとは。。。

このナツメ・ホームズのなりきりっぷりが実におかしい。
お馴染みのホームズの扮装をしているのだが、いかんせんホームズと漱石は身長が違いすぎる。ことごとく似合わないのだ。
しかも実際のホームズとはかけ離れた指摘を受けたり(なぜそこまで日本に詳しいのかなど)、推理を依頼されるとすっとぼけるのだ。
このすっとぼけかたが、いかにもホームズになりきろうとして微笑ましい。
もちろんホームズでお馴染みの人間職業当て(このステッキの持ち主は~人で・・・というやつですな)もことごとく外しまくるしな~♪♪

でもきちんと原典のホームズのネタをいろいろ抑えているので、ホームズファンにはそういった意味でも楽しめるんじゃないでしょうか。
それぐらい柳さんのこだわりっぷりは伝わってきますし、既成(あるいは実際の歴史)の中に自分の世界を作り出す手腕はさすがですな~♪
そしてそんな壊れたナツメ・ホームズの言動が事件のスパイスとして効いてきますしね。
ほんとトリックメーカーというよりストーリーメーカーとしての柳さんの豪腕っぷりはとどまることをしりませんな。

一方肝心のミステリはというと、トリック的な部分がシンプルすぎるという批判があるかもしれないが、まっとうなミステリの手順を踏んでいる。
冒頭での倫敦塔での怪異譚や降霊会(←このあたりが後年のコナン・ドイルを感じさせて)での殺人などの小道具の筋立て。
そしてホームズの原典を生かしきった(?)たともいえる真相なぞは、『贋作「坊ちゃん」殺人事件」に通じる意外性がありましたね。

そして解決編手前で挿入される、倫敦塔を舞台にした幻想劇。
コレ自体不要と思われる読者がいるかもしれない。ある種の動機付けの部分では必要かもしれないが、それ以上に作者の主張が透けて見えなくもないからだ。
ただ一方でこの場面のラストの一言は強烈であり、この一瞬にして作品の世界観ががらっと変わるようなインパクトがあった。
それだけでもこの場面が挿入される意義があると思うし、叙述トリック的な印象を最後まで被せる効果はある。(少なくとも僕はこの場面好きです。)

ミステリとして読むには若干小粒なのは否めませんが、それを補うユーモアに満ちていて面白かった。
ホームズのパスティーシュとしては異色ながら、ファンにも評価される作品だと思います。
ホームズ好きの方、ぜひ読んでご感想をお聞かせくださいませ♪


採点  3.9