『美奈の殺人』(☆2.6)



青春の夢と孤独を描く愛のミステリー
「だって、あの子人を殺してるんだよ」僕の17歳の夏を狂わせた美少女の秘密!

こんがり焼けた肌、すらりと伸びた脚と長い髪。夕暮れの海辺で出会った美少女の名は美奈。
彼女との出会いが、僕の17歳の夏を狂わせていく。2つの殺人そして奇妙な誘拐劇。
得体の知れぬ陰謀に巻き込まれた僕を待っていた事件の真相とは?
期待の俊英が放つ、青春の危険な香りに満ちた“愛”のミステリー!

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『昨日の殺人』で衝撃を受け、続けざまに手に取ったあの頃。
実に久しぶりの再読はほろ苦い味。。。

改めて思うのはデビュー時から不思議な程に変わらない作風の存在。
若かりし時代の一瞬を切り取り、青臭くもどこかほろ苦かく、そして自分らしさを模索する登場人物達。
「昨日の殺人」でもそうだったし、近年の快作『甘栗と金貨とエルム』もそうだった。
そしてこの主人公もその一人。

結局最初から最後まで主人公の名前が呼ばれる事はない。
彼の一人格を切り取った渾名が、複数の人物に複数の形で呼ばれるだけだ。
そんな彼が、やはり自分のアイデンティティを失った少女、美奈と出会うことで事件に巻き込まれていく。
そこで描かれるあまりに脆い青春像はまさに太田さんの真骨頂というべきだろう。
ミステリとしても、決して意外性がずば抜けているわけではないものの、丹精に組み立てられている。
この小説を読んだ当時受けた印象が、目の前によみがえってくるようだった。

ただ、時間はやっぱり残酷なのかもしれない。
根本のところで変わらない作風ゆえに、時間が生み出した作家として技量と経験の差が小説に現れていると思ってしまった。
主人公の少年(17歳)のどこまでもハードボイルドな物言いは、『甘栗と金貨とエルム』と同じなのだが、この作品においては少々違和感があった。
正直、大人びているというよりオッサンなのだ。
初めて読んだあの頃は、やはり青臭かった自分と重ね合わせてたからこそ、感動したのかもしれないが、今改めて読むと苦しい。

ただ、作品の後味のよさは、この手のアイデンティティ探し系としては異色だと思う。
こういった部分もやっぱり太田さんの変わらない持ち味であり、そしてこれからも変わらないで欲しいものだと思う。
オススメするには少々古臭すぎる印象が残ってしまうのでなんともいえないが、懐かしいあの頃に触れてみるのもいいかもしれない。
少なくともあの頃の自分には星4つ以上の作品だったと思う。。。


採点  2.6