『金田一耕助に捧ぐ九つの狂想曲』(☆3.2)



もじゃもじゃ頭にぼんやりした姿、しかし、誰よりも鋭く、心優しく犯人の心に潜む哀しみを解き明かす。
ミステリ史上に燦然と輝く名探偵に現代気鋭の作家が挑む―珠玉のアンソロジー。

yahooブックス紹介より

横溝正史生誕100周年を記念して、9名の作家が横溝・・・というより金田一耕助にオマージュを捧げた短編集。
なかなかにバラエティに富んだ面々。ほほう、この人も横溝好きだったんだねと思った人もいたりして。
と、いうよりはやっぱりみんな横溝が好きなのかな~♪
という事で、今回は気に入った順に紹介していきたいと思います。

『月光座~金田一耕助へのオマージュ~』 栗本薫

収録作の中でも一番真っ向から描いた作品。なにしろ物語の下書きに横溝の「幽霊座」を使ってるわけですから。
この作品では「幽霊座」のトリックや犯人が言及されているので、できればそちらから読んでいただきたいところ。(あえて注意書きが無いのは、オマージュ作品集だから?)。
それにしても金田一と伊集院大介の競演というファンサービスがありつつも、「幽霊座」事件に隠されていた(かもしれない)真実を浮かび上がらせた手法もさることながら、それが見事に横溝してると思います。
なんとな~く横溝先生もこんなラストの作品を書くかもな~と思わせるし、地の文はともかく台詞の言葉遣いなんかは横溝に瓜二つだと思いました。
決して大事件を取り扱ってるわけではないものの、著者の愛情が伝わる収録作随一の作品だと思いますね。


『愛の遠近法的倒錯』 小川勝己

「月光座~」と対照的に、横溝的世界を構築しつつ新しい金田一耕助の物語を描いています。
文章的には決して横溝ではないとは思うのですが、作品をつらぬくなんともいえない鬱々とした空気、犯人の悲しい動機、そして事件の背後にある人間の心理模様。
円熟期というよりも、初期の横溝の持つ雰囲気に近いのではないでしょうか。
ある意味もっとも真っ当なオマージュ作品といえるかもしれませんね。
ちなみにこれが初小川^^;;;


『鳥辺野の午後』 柴田よしき

これは金田一のオマージュとしては微妙なラインという気もしないでもありませんが、一つの短篇としてすごく綺麗にまとまっているような気がします。
なんとなくですが、横溝の初期の短篇を現代に写すとこんな感じ?
ただここで描かれる金田一の優しい眼差しは、オリジナルの金田一に繋がると思います。


『ナマ猫邸事件』 北森鴻

こういう完全なるパロディというのもオマージュ短編集の醍醐味といえるかもしれませんね。
徹底的にちゃかしつつも、おさえるツボは押さえてる感じがするのは作者の力量?
ただ一番残念なのはたいして笑えないということ(笑)。


『キンダイチ先生の推理』 有栖川有栖

このあたりから少々苦しい匂いが^^;;;
金田一の名前を冠しているものの、言葉遊び程度ぐらいにしか効いてこないのが残念。
遊び心は感じるし、推理物としてもそれなりにまとまってるんですけどね~。
横溝かというと微妙に違う感じが^^;;;


『松竹梅』 服部まゆみ

横溝でおなじみの○○トリックを使った作品。物語の運び方も悪くない。
ただいかにも話として面白さが足りないと思う。
横溝、あるいは金田一への思いが空回り?ラストの閉じ方も横溝的なものでは無い気がしますな~。


『闇夜にカラスが散歩する』 赤川次郎

どこからどう切っても赤川次郎。でもどこか横溝の遊び心にも通じる気がします。
こういうのを読むと、横溝正史の影響というか、横溝自身が持つ雰囲気の豊かさを実感できるかも。
ただいかんせんボリュームが圧倒的に足りないです^^;;;


『雪花 散り花』 菅 浩江

著者が金田一に捧げる物語を描こうという気持ちは見えないでもないのですが、それが読み物としてはまったく生かされてないと思います。
少なくとも金田一はこういう推理をしないと思うし、横溝もこういった物語は書かない気がします。
ある意味、一番どうなのよと思った作品。正直つまらなかった。。。


『無題』 京極夏彦

これをどう語れと^^;;;
関口、横溝と邂逅す・・・ってあの小説からの抜粋じゃん(笑)。


全体としては金田一へ捧ぐと銘打った割には、そういったものへのリスペクト具合が曖昧で、作品の出来不出来も強いのかなと。
作者の個性を楽しむ分にはいいのですが、本のテーマからすると正直柴田さんまでがギリギリと判断してしまいました。