『フィッシュストーリー』(☆3.6)



伊坂ワールドの名脇役たちが遭遇する、「別の日・別の場所」での新たな事件。
売れないロックバンドが、最後のレコーディングで叫んだ音にならない声が、時空を越えて奇蹟を起こす。
伊坂幸太郎の真骨頂とも言える多重の企みに満ちた表題作他、読者人気の特に高い"あの人"が、今度は主役に!!
デビュー第一短編から最新書き下ろし中編まで、変幻自在の筆致で編んだ伊坂流ホラ話の饗宴。

yahoo紹介より

図書館に購入希望を出したら割りとあっさり順番回ってきました。もしかしたら一番目?ぐらいの勢いです。
と思ってちらっと予約件数を見てみるとまだ4人。近所の図書館では伊坂さんより奥田英朗さんの人気の方が高いのか?

いや、それはともかく元々そこまで熱烈な伊坂ファンではないので(といいつつ作品は全部?読んでますが)、売り文句の一つである作品間のリンクを楽しめるのかと不安になりつつ読み始めましたが、そこはそれ(何がそれ?)リンクのいくつかは気がついたのでちょっと一安心。
去年伊坂作品を読みまくったのが功を奏したのでしょうか。
売り文句から察するに元々この短編集、どちらかというとファンが楽しめる要素が強い作品のような気がします。裏を返せば他の伊坂作品(特に「ラッシュライフ」)を読んでいないと、氏の他の作品に較べると吸引力に欠けるかなという感じ。
でも面白いのは面白いんだけどね(笑)。
それでは簡単に各作品の感想を。


「動物園のエンジン」

夜の動物園を舞台に、市長自殺事件と元職員の関係をぐだぐだ(褒めてます)と推理するこの作品。
どこかで似たような話を聞いたと思ったら「ラッシュライフ」にこのエピソードが出てきてたんですな。
登場する伊藤君は「オーデュボンの祈り」の主役(これは憶えてました→以下憶)、河原崎は「ラッシュライフ」の河原崎のオヤジ(これは忘れてました→以下忘)だそうな。
個人的にはまったりとしたこの作品の味わいは嫌いじゃありません。ミステリ的な要素は薄い分、伊坂さんの洒落た会話を楽しむにはいいと思います。
そんな味わいとは裏腹に登場人物達の後日談の暗さのギャップがなかなかにらしい作品かなあ。



伊坂作品の常連(?)黒澤が、人探しに訪れた村で奇妙な因習に遭遇する。
リンクとしてはやっぱり「ラッシュライフ」でしょうか。黒澤が紹介する画商は佐々岡(忘)で、花江との会話ではあの老夫婦強盗(憶)のエピソードも語られてますね。
他の方の書評を拝見するに、収録作の中では一番人気が薄いようですね。でも僕はそんなに嫌いじゃなかったな~。
ミステリ的要素は他の収録作に較べて若干高いものの、さりとてそこまででは無し。むしろこの村にとっての「おこもり様」という因習、そして村長がとった手段というのは、伊坂作品によく登場する風景のひとつの縮図だと感じました。
最後の黒澤の一言が中々にウイットを感じさせてくれた気がします。


「フィッシュストーリー」

ロックバンドのエピソードを中心に断片的な物語がひとつの形を形成していく、いかにも伊坂作品らしい一編。個人的には一番上手いと思った作品。
リンクでいうと、「グラスホッパー」で印象に残っていたジャック・クリスピンの登場?(憶)、そして「ラッシュライフ」のあの老人達が動いて登場してくれた(憶)のには感動(笑)。
どこがどうというのは難しいのですが、読み終わってみると構成の妙、ストーリーの明解さが心に残りますね。
こういった作品を書かせると伊坂さんは本当に上手いと思います。


「ポテチ」

とある野球選手の自宅に空き巣に入った泥棒が、ひょんなことから騒動に巻き込まれる。
リンクとしては「引力を発見した」今村君の再登場にニヤリ(憶)、「オーデュポンの祈り」の若葉ちゃん登場に誰だっけ(忘)。
さらには「重力ピエロ」の泉水もちらっと存在を語られ(憶)てる嬉しかったり。
伏線の収束の仕方はある程度予想通りだし、ラストのエピソードもはっきりいって出来すぎ。でもそこに安っぽさを感じさせず、染み入るものにしてくれるのはさすがという他ないのかも。
上手さは「フィッシュストーリー」、好みはこの作品ということでしょうか。
若葉と今村母の会話がいいですね~、うんうん。


全体としては綺麗にまとまってる短篇集であると同時に、それぞれの作品間リンクがお遊び終わってないのがさすが。
これを読むと、もっと他にリンクも無かったかな?と昔の作品も読み返したくなる。
う~ん、商売上手?(笑)