『レインツリーの国』(☆3.7)



きっかけは「忘れられない本」そこから始まったメールの交換。あなたを想う。心が揺れる。でも、会うことはできません。ごめんなさい。かたくなに会うのを拒む彼女には、ある理由があった―。青春恋愛小説に、新スタンダード。

yahoo紹介より

『図書館内乱』での1エピソードに登場した『レインツリーの国』。
後書きで著者が語ってる通りの真っ向勝負の恋愛モノでした。

聴覚障害を題材に扱った恋愛モノ。良く出来た小説だと思います。
いかんせん健常者である主人公の男、伸があまりに出来すぎてるのが気にならないでもありませんな。
彼の父親のエピソードがその後の彼の人生に大きな影響を及ぼしたのは分かるのですが、作中ではその過程が見えなんでね~、あまりにも男らしい男すぎるかな。
聴覚障害を持つ女性、ひとみの造詣は良く出来たと思う。
いわゆる泣きのドラマ調にただ前向きで豊かな感性の持ち主であるといった設定ではなく、怒るし妬むし結構きつい言われ方もする。
これは後書きでも触れられていたように、著者がきちんと取材した上で感じ取ったことを元に構築された部分であるだろうし、ベタな設定に委ねることのなかったスタンスは評価していいんじゃないかと思う。
だからこそ、この物語でいえば聴覚障害を持った異性と付き合った、あるいは結婚した健常者の異性への(たとえば男性だけでもいいから)リサーチがもっとあれば、薄っぺらく感じられる部分が補われたとのでないかと惜しまれる。

また『図書館内乱』でのエピソードから考えると、リンクという部分では無理があるのかな。
そもそもこれを薦めたからといって、あそこまで過剰反応する内容なのかな。それにのった体制側には別の思惑があるにせよ、少なくとも友人の女子高生たちの過剰なリアクションはありえないような気が。どこをどう取ってもあのリアクションはないでしょう。
そういった意味では著者の当初の思惑以上に物語が走り出したのかもしれない。
つまりは単独の作品として面白かったと評価するのが妥当かと。著者には申し訳ないが。

さてさてこの本を誰に薦めるべきなのか。
『図書館内乱』では鞠江の読書傾向の好みを知った上で小牧は彼女にこの本を薦めたが、健常者にこの本を薦めるのはまあありとしても、聴覚障害を持った方に普通に薦めるかどうかは思案のしどころ。
僕もかつて似たようなことをして大失敗したことがあるのだけに悩む。
まあ小牧の勧め方のプロセスはありだと思うし、これを読んで何か感じ取れといった感じで薦めるのではなく、普通にこういった話は好きだろうという人に薦めるというのでいいのかな~。
っていうか普通にこれを読んで病気を感じ取れというのだったら、ノンフィクションや専門書の方がよっぽどいいだろうし^^;;