『ダブルダウン勘繰郎』(☆4.2)



京都―河原町御池交差点。蘿蔔むつみはそびえ立つJDC(日本探偵倶楽部)ビルディングを双眼鏡で一心不乱にみつめる奇妙な探偵志望者・虚野勘繰郎とめぐりあう。―それが過去に66人の名探偵の命を奪った『連続名探偵殺戮事件』の再起動と同調する瞬間だとは思いもよらずに…!?新鋭・西尾維新が御大・清涼院流水の生み出したJDCワールドに挑む。


舞城王太郎九十九十九』と同じく、清涼院流水の「JDCシリーズ」トリュビュート作品。
とはいっても、『九十九十九』がどこまでいっても王太郎だったように、こちらもどこまでいっても西尾維新
冒頭の文章はあれっと思うぐらい文学調(←どんな調?)でびっくりしましたが、単語のセレクトなんかは完全に維新ワールド。
時々思い出したかのような「流水大説」っぽい文章がでてくるのはご愛嬌でしょうか。

清涼院本家、あるいは王太郎のようにメタな世界の中でアンチリアルな物語を形成する・・・という訳ではなくしごくまっとうな探偵小説。
とはいっても密室も、足跡も、ミッシングリンクも、ダイイングメッセージも出てきません。
ただただ探偵とは・・・という部分をつきつめようとしている感じがしますね。
ページ数が130ページに満たないということもあり、ややライトな感じもさせますし、過去の事件として語られる『連続名探偵殺戮事件』の犯人と勘繰郎との討論(?)は、『戯言』シリーズに近いかもしれない。
だからコテコテの本格好きの人には本の薄さと相まって物足りないと感じるかもしれない。

とここまでかくといわゆるライトノベルな感じで、「戯言」シリーズと同様本格エッセンスが薄い作品・・・かと思ったら、最後の最後、2回のドンデン返しにはちょっと意表をつかれました。まさか西尾さんが○○トリックを使ってくるとは。
まさに今までの本格コードの解体かと思わせる部分まで実は作者の罠だったとはねえ。
2回目のドンデン返しは、それまで本格のお約束をある意味違反してるわけですが、それすらも読み返してみると冒頭で予告されていると読める。

「JDCシリーズ」というメタミステリの枠組みを借りながら、実はそれを読んで無くても十分楽しめる作品。
もしかしたらデビュー作「クビキリサイクル」以来、もっとも本格により戻した作品。
ううむ、やっぱりあなどれないのか西尾維新。。。