『本格ミステリベスト10 2007』(原書房)を読んで<前編>

いまや本格好きにとって、年末ベスト10は師走の楽しみの一つではないでしょうか。

その先陣を切って原書房より、『本格ミステリベスト10 2007』が発売されました。
さて今年のランキングはというと

 1位  『乱鴉の島』 有栖川有栖
 2位  『顔のない敵』 石持浅海
 3位  『厭魅の如き憑くもの 三津田信三
 4位  『夏季限定トロピカルパフェ事件』 米澤穂信
 5位  『邪魅の雫』 京極夏彦
 6位  『シャドウ』 道尾秀介
 7位  『骸の爪』 道尾秀介
 8位  『福家警部補の挨拶』 大倉崇裕
 9位  『向日葵の咲かない夏』 道尾秀介
10位  『仮面幻双曲』 大山誠一郎

11位  『UFO大通り』 島田荘司
12位  『風果つる館の殺人』 加賀美雅之
13位  『千一夜の館の殺人』 芦辺拓
14位  『赤い指』 東野圭吾
15位  『殺意は必ず三度ある』 東川篤哉
16位  『宿命は待つことができる』 天城一
17位  『少年は探偵を夢見る』 芦辺拓
18位  『帝都衛星軌道』 島田荘司
19位  『ウロボロスの純正音律』 竹本健治
20位  『トーキョー・プリズン』 柳広司


となりました。
ちなみに21位以下には『月館の殺人』『びっくり館の殺人』『怪盗グリフィン、絶体絶命』といった新本格のベテランのみなさんも入ってますね。
いやあ、今年のランキングは語れない(笑)。
とにかくベスト10で読んだのが1位の『乱鴉の島』のみ。
20位まででも、島田さんの2冊、そして東野さんだけ。
ちなみに5位の京極さんと19位の竹本さんは購入はしておりますが、まだ開いておりません。
ちょっとこれは情けない(笑)。
とりあえずランクインの著者を見てみると石持さんは確か昨年に続いての2位ではなかったかな。
そして道尾さんが3作ランクインの快挙(多分)。しかしこの人の本を一冊も読んでない!!
さらには20位以内に島田御大が2作ランクイン。
しかしね~、この2冊ともそんなに出来がいいとは思えないんですよね~。
本格という定義では不利なのかもしれませんが、『怪盗グリフィン~』とかの方が出来がいい気がするんですけどね~、はい。

ちなみに今回は『本格ミステリベスト10』刊行10周年記念として、1996~2005年のオールタイムベストが発表されてます。
さらにはインターネットで投票を行った2007年、オールタイムベストの結果もそれぞれ掲載されてるという贅沢な仕上がり。ちなみに私も投票してみました。
その結果についての感想は後半に譲ります。

さてさて今回は特別インタビューとして島田荘司氏が登場しております。
ちなみにタイトルが『「本格」Man of the Year 2006』、いやあ凄いアオリですね(笑)。
内容はというと、本格の成り立ちから日本における変遷、さらに21世紀型ミステリの島田氏の見解をとにかく喋り倒してます。
だって一つの質問に対して、1ページ3段組で約6ページ弱喋り続けてますから(笑)。
とにかく御大のミステリに対する情熱は感じられますし、21世紀型ミステリというのも理解できなくはないです。
(ちなみにこの『21世紀型ミステリ』については一位の『乱鴉の島』でも触れられてますね。島田氏の影響凄まじきか?)

ただ日本の硬派本格作家(定義がよく分かりませんが、多分ヴァン・ダインの流れ)や、本格原理主義者にとってポーやドイルがタブーとされているというくだりは大いに首を傾げます。そんな事初めて聞いたような気がします。島田さんの言わんとする事はわからないでもないでもないですし、日本の本格にダインが与えた影響は大きいとは思います。しかし一方でダイン=神あるいは正義という主張はあまりに狭義的な見解なのではないかと思います。

また綾辻以降の新本格に対する登場人物の記号化という問題において(ちなみに記号化を否定して人物背景を書くと、田山花袋と関わりかねず危ないという論もまたすごい・・・)、人物の記号化をしないものはけしからないという異端審問的風潮があったと述べられてますが、そうなのと???

そもそも全体を貫く、あるいは21世紀型本格におけるダインの束縛からの離脱という提言においても現在のミステリ界においてダインの束縛を感じながら書いてる作家がどれほどいるのかという(主流の中堅作家において、あえていうなら二階堂さんぐらいしか思い浮かばない。)気がしますね。

果たしてこれを読まれた皆さんはどう思われるか、あるいは現役のミステリ作家がどう思うか気になるところではあります。

それから最後に『容疑者Xの献身』に関する一連の論争(←そもそもミステリ文芸雑誌を読まないのでそんなことあった事すら知りませんでしたが)についても掲載されています。なかなかにマニアックな論争ですが、僕自身は面白きゃいいじゃんと思いました(笑)。


(後編に続く)