『地球儀のスライス』(☆3.6)



「黒窓の会」―それは、那古野市きっての資産家の令嬢、西之園萌絵を囲んで開催される秘密の勉強会である。ゲストとして招待されたN大学工学部助教授、犀川創平は一枚の写真にまつわるミステリィを披露する。それは、インドの石塔の遺跡に関する奇妙な謎であった。(「石塔の屋根飾り」)森ミステリィのあらゆる魅力が、一杯につまった珠玉集。


まどろみ消去』を読んでいないので、初めて森さんの短編集を読む事になりました。

森さんはミステリ好きの間でもわりと好き嫌いが分かれる方ですのが、その一番の原因はやっぱり独特の文章だと思います。
一般的に理系ミステリといわれる事が多い森さんですが、確かに事件の舞台や構造は理系的な部分が強いですが、それを表現する文章はむしろ作を重ねる事に時には過剰とも思えるような濃厚な文学色に彩られ、それが苦手な人が多いんだと思います。
短編というとどうしても作者の色が濃縮されているというイメージがあるので、森さんの作品に関しては少々食わず嫌いなところがありまして、今まで手に取らなかったんですね、

で、感想ですが非常に読みやすかったといいますが、いままで森さんは短編には向かないんじゃないかという勝手な認識を少し改めました。
たとえば本作に収録されているS&Mシリーズの2編も、短編になることによって過剰な文学要素が削られて純粋に謎だけを楽しめるといいますか、むしろユーモラスな匂いを感じさせてくれたのは新鮮でした。
また一方でミステリというよりは完全に純文学よりな短編(中にはホラーチックな作品も)あり、森さんの長編にあった2面性がいい意味で分離されてると感じました。
短編という長さの制約上、非ミステリ的短編も文学的表現がより整理されている印象を受けたのも読んでいて高評価の部分でした。

まあ、この文学的表現というのも一体どういう表現なのかイマイチ僕もわかってないところもありますが、なんとなくですよなんとなく。
とにもかくにも森さん嫌いな人でもわりと読みやすいんじゃなかなと思います。