『スキップ』



昭和40年代の初め。わたし一ノ瀬真理子は17歳、千葉の海近くの女子高二年。それは九月、大雨で運動会の後半が中止になった夕方、わたし は家の八畳間で一人、レコードをかけ目を閉じた。目覚めたのは桜木真理子42歳。夫と17歳の娘がいる高校の国語教師。わたしは一体どうなってしまったの か。独りぼっちだ―でも、わたしは進む。心が体を歩ませる。顔をあげ、『わたし』を生きていく。

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北村さんの「時と人」シリーズ(合ってますかね?)第1弾です。
普通の女子高生が突然未来の自分になってしまうことによって起きるドタバタ劇の中で人との関わり方や生き方を模索する物語・・・といえばいいのですかね?

実年齢と違う人の体に魂が入ってしまう、といえば東野さんの「秘密」を思い出してしまいますが作品の方向性としては全然違うので、較べるのは間違ってますか。どちらかというと密度を濃くした赤川次郎といった方が近いかも。

この作品は読者のよって好き嫌いが分かれるのかなあ。正直設定にちぐはぐな部分がないとはいえませんね~。なぜ未来の夫と娘はあんなにすんなり状況を受け入れてしまうのか?なぜ国語教師が出来てしまうのか?そして新田君との関係などなど・・・。

この点に関しては僕自身は納得しました。これが一ノ瀬真理子なんだと。主人公の造詣はきちんと出来ていると思うし、そんな彼女が選んだのがご主人であり育てたのが娘なんだと。
新田君との関係、そして真理子が出した結論に関しては賛否両論出てくるとは思いますけど、選択肢の一つとしてはあり得ることだし、少なくとも僕は最終ページでは泣いてましたからね(僕の涙は信用できない)。
まあ国語の部分に関しては、北村さんが教師時代にしたくてもできなかった理想の授業をやってみた、という感じがしないでもないですが。

この小説と読むと思い出すのが、同じく北村さんの『秋の花』。「円紫さんと私」シリーズの第3弾であり、唯一死者が出た作品です。『秋の花』の記事でも書きましたが、この時亡くなった高校生と今回の主人公は同じ真理子という名前です。

『秋の花』では不幸な事件で図らずも若い命を失ってしまった彼女に対する作者自身のオマージュ的な要素を感じてしまいす。もし彼女が生きていたらこんな素敵な人と巡り合えて、こんな可愛い子供を産んだんだよと。
今回の主人公は時間をスキップする事によって時間を失うという体験をしてますが、そういう意味では『秋の花』の真理子との共通点になるわけですし、失った未来の補完と考えるのは穿った見方ですかねえ。

まあ、なんだかんだいいながら好きな小説なんですよと♪
そういえばNHKドラマの松坂慶子さんもなかなか素敵だったですねえ。